【アルスマグナ】光のさきには…【九瓏ケント】

1話 ページ1

『ハァ…ハァ…もうっ来ないでッ！』

少女は走る。

汚れ、破かれた制服を身に着け、街の視線も一切無視して、無我夢中。

切羽詰まった表情からは、何かに追われているのが見て取れた。

怪訝な、珍しいものでも見るような視線を彼女に向けるも誰一人声はかけない。

『お願いッ…誰かっ…』

「待ってよーおい、先回れっ」

彼女を追いかけるのは、見たところ同年代の男達数人。

異様にギラギラとした瞳で少女を追いかけていた。

後ろを気にしながら走っていた少女は、角を曲がったところで通行人とぶつかり倒れる。

『ごっごめんなさいっ…』

「いや、こちらこそ。大丈夫？」

声をかけられハッと、顔を上げる少女。

『えっ…先生？』

「A？どうしたその格好…」

知り合いらしき人物に、ホッと息をつくも…

「みーつけた！おいっこっちだ！」

後ろから聞こえてくる声に、少女はすぐさま走り出した。

「おい！A!?」

その呼びかけにも答えることなく、彼女は走り去っていく。

「どこ行った!?」

「そっち探せっ！」

聞こえてくる追手の声に、目の前に廃工場へと身を潜めた。

『うっ…ゴホッゴホッ』

入った途端、息切れと埃臭さで咳き込む。

『とにかく隠れなきゃ…』

大きな重機の後ろへと身を隠せば、まじまじと自分の体を確認した。

『こんな格好で…』

手と足にはいたるところに切り傷と擦り傷が刻まれ血がにじんでいる。

汚れたブレザーとホックの壊れたスカート、破られたブラウス。

その時、扉が閉まる音と、数人の足音。

途端に震えだす体をギュッと抱きしめる。

『(お願いお願いお願い)』

しかし彼女の願いも空しく…

「Aちゃんみーつけた。」

『キャッ…』

声と共に体が床へと投げ飛ばされる。

「鬼ごっこは俺達の勝ちね？」

「逃げるの早いから捕まえるの苦労したじゃん。」

『ぃゃぃゃぃゃ』

「大人しくしてればすぐ終わるから。」

いやらしく笑う男の集団。

『嫌ッ…やめて！！』

震える声で叫べば、「うるさいなー」と1人が馬乗りになる。

そのままブレザーとブラウスを引き裂けば露わになる素肌。

他の男達が手首と足首を押さえつければ、完全に自由を奪われた。

そして体中を撫でまわす無数の手に、涙を流しながら少女はギュッと目を閉じた。

「そこまでだ」

少女が諦めかけた時、薄暗い廃工場の扉が開かれた。

そこから差し込んだ光。

聞いた事のある声と遠くから聞こえるサイレン。

少女はそこで意識を手放した。

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