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「河村さん」
背後から声がかかった。ドアを開ける音も、素足でフローリングを歩く音も聞こえなかったのに、彼の声だけは確かに僕の耳へ届いた。シャワーの音はもうしなかった。
椅子を僅かに回して体を捻れば、伊沢はタオルを水の滴る黒髪に乗せて僕を真っ直ぐ見据えていた。
彼は常に前だけを見ていた。僕が後ろを振り返って足を止めている間も彼だけはずっと前に進み続けていて、自分の後ろを着いてくる者達の為に道を切り開いて、時折立ち止まった僕の腕を引いてくれては、過去を振り返る僕に「河村さん」と呼びかけてくれる。
彼のその真っ直ぐな瞳が羨ましかった。年下なのにいつの間にか憧れさえ抱いていた。だけど時々、どうしようもなく目を逸らしたくなる。
瞼を、降ろしたくなる。
「休み、取りますか？」
「……え？」
「ほら、最近妙に上の空なんで」
彼からの思ってもみなかった提案に思わず間抜けな声が飛び出す。その提案が彼の善意であることは分かっているのに、どうしても嫌な方へ考えが傾いていってしまう。
それは、僕なんかが居なくても大丈夫だという意味だろうか。まぁ、そりゃそうだ。プロデューサーなら福良が居るし、動画を編集できる人間は他に幾らでも居る。この席が僕である必要なんて、全く無い。
……あぁ、本当に。こんな卑屈な考えしか出来ない自分が、心底、嫌になる。
「……考えとく。今日はもう上がるよ」
「はい、お疲れさまです」
「お疲れ」
外に出る前に一瞬だけオフィスを振り返って、玄関扉を押し開ける。
その日は珍しく、エレベーターを使わずに非常階段から一階まで降りてマンションの外に一歩踏み出せば、雨足は朝よりも一層強くなっていた。
傘を差して雨粒が叩きつけられる振動を掌全体で感じながら、下したての靴で深めの水溜まりを踏みつける。靴には水が染み込み、パシャンと大きく跳ねた水滴でズボンが濡れるが、気にせず数歩先の水溜まりも無遠慮に踏みつけていく。
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白菜(プロフ) - ひとみ。さん» 誤字のご報告ありがとうございます！早急に訂正させて頂きました！ここから更に面白くなる(予定)ので、是非楽しみにしていただけたら嬉しいです！ (2020年10月9日 23時) (
レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
ひとみ。 - いつも更新ありがとうございます！毎日楽しみに読ませていただいてます！ページ40の所で、『丸分かり』が『丸和かり』になっています...！これからの展開が楽しみです...！まだまだ気が抜けないこの時期ですが、お体にお気をつけください！長文失礼しました。 (2020年10月9日 19時) (レス) id: 807ddee245 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 千由里さん» ありがとうございます！まさかの一番テンションが高い作品の後でこちらに足を運んでくださったんですか(笑)寒暖差による体調不良にはくれぐれもお気をつけください。これからもゆっくりではありますが頑張りますのでよろしくお願い致します！ (2020年10月8日 19時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
千由里 - 白菜さんの小説いつも楽しみにしています。「放送禁止用語連発系女子」をみてきたので落差が激しいです。でもとても現実的でギリギリなのでとても楽しみにしています。これからも頑張ってください。 (2020年10月7日 18時) (レス) id: 57238377df (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - なおさん» 初めてのコメントありがとうございます！毎回楽しみにしていただけているなんて本当に嬉しいです。これからも過去最高を更新していけるように頑張りますので、どうぞお付き合い頂ければ幸いです！ (2020年10月7日 16時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
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