Story.7 ページ8
「先輩だったのか……あの……敬語で話した方が……」
「今更いいわよ。……私も敬語使うのやめるから」
「なんで今まで後輩に対して敬語使ってたんだ？」
「余計なことは話さないって戒めと心の距離を保つためよ」
「心の距離……」
私がそう言うと腑に落ちなさそうな顔で私の顔をじっと見つめるショート。
「色々聞きたいことが」
「話す義理はないわ。あんたと私、昨日初対面でしょ。……それに昔の話なんて酒飲んでる時でもなきゃ話せないわよ。
……ちょっと、そんなしょぼくれた顔しないでよ。」
捨てられた子犬を彷彿させるようなその表情を見て、思わずフッと笑いがもれる。
「……仕方ないなぁ。連絡先、交換しよう。また今度、飲む機会があれば話してあげるわ。」
私の言葉で少し表情が明るくなったショート……いや、轟焦凍と連絡先を交換すると、彼は私に礼を言って帰っていった。
……彼が帰ったあと、割れた写真立てをもう一度手に取る。
元々、私がヒーローに向いていたかと聞かれたら向いていない、と答えるのが正しかっただろう。
でも、それに気づくまでに時間がかかりすぎた。
私は強くて。自他ともに私のことを強いと思っていて。学年首席を3年間キープし続けて。努力も重ねて。インターンやサイドキックのオファーも幾度となく受けて。体育祭で3年間優勝し続けて。
有頂天になって。心の強さは置き去りにしたまま戦闘の実力だけがどんどん育って。敵のレベルだけがどんどん上がっていって。
有頂天になるうちに、何故ヒーローを目指していたのかすら忘れ去って。
そしてあの日、狼狽えて、怯えて、何も出来なくて。
雄英という“箱”の中だけでは、有頂天になるにはあまりに狭い庭だったことを知って。
人々の悲鳴に、目の前の惨状に、私は私を“ ヒーロー”と呼ぶにはあまりにも歪であったことを悟って。
私は、私が人の命を守るために自分の命をかけられるような強い人間ではなかったことを目の当たりにして。
……私とは違う、人を守るために自分の命をかけた
そうして、死を目の当たりにした私には、友の仇を取ろうと思えるほどの強さも、友の夢を共に背負う覚悟すらなくて。
……私はヒーローを目指すのを辞めた。
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作者名：近藤。
| 作成日時：2021年5月28日 2時
