Story.10 ページ11
「怒らないのか？その……かなり辛い話だったから」
「なんで怒るのよ。酔っ払って大声でそんな話をしてた私が悪かったわ」
「……そうか」
聞きにくそうに、轟くんは私の顔を覗き込んで機嫌を伺う。サラサラの髪が窓から入り込んだ朝日にあたって白銀に輝いている。
私は彼のプライベートしか知らないから、こんなに顔のいい人が戦っているところ、想像つかない。
でも彼はヒーローなんだと、自分自身との線引きも含めて諦めたように言葉を吐いた。
「まあでも……その犯人、まだ捕まってないの。固まって震えてた私が取り逃したも同然なんだけどね。
……ヒーロー、私の友達の仇討ち頼んだわよ」
私がへらっと笑いながら彼にそういうと、彼は少し考えたあとでボソッと口を開いた。
「榎本さんは、戦わないのか？」
「…………っ！」
何気ない一言だったらしい彼の言葉が刺さって、思わず立ち上がる。
しかし、そんな私の様子など気にせずに、轟くんは言葉を続けた。
「この間、榎本さんがヴィランを倒しているのを見た時、強いヒーローだと思った。
実力があって、ヴィランと戦うことに抵抗がないなら、逃げちゃだめだ……と思う」
そう言った彼は、私の目を真っ直ぐ見ていた。……逃げた私はそれだけで責められているような気分になって、必死に目をそらす。
「あれは、あの時戦えたのは、自分の身を守る為だったからよ。
ヒーローなんてなりたくない。人を助けて死んだら称えられて、人を助けられなくて死なせたら責められて、恨まれて。
助けられなかった人の最後を目に、脳に焼き付けて生きていかなきゃいけないでしょう。
……そんなの御免よ。冬美さん、ご馳走様でした」
私は立ち上がって食器をキッチンのシンクへ運ぶ。ご馳走になっている身で早々に席を立ってしまい、常識的に流石に無かったとため息をついた。
そうしていると、食べ終わった冬美さんがキッチンへやってきた。
「あ……ご馳走になりました。食器、洗います」
「ふふ、お粗末さま。いいのよ、私がやっておくから」
「いえいえ！いい歳した大人が迷惑かけっぱなしっていうのは流石に……」
「それなら一緒に片付けましょうか」
そう言ってにっこり笑う冬美さんの無言の圧力に勝てずに、私はキッチンのスポンジに手を伸ばした。
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作者名：近藤。
| 作成日時：2021年5月28日 2時
