▽ ページ7
．
「これで僕も、犯罪に加担したことになるんですかね」
「……言わないんだ？」
「あの子には、貴方が必要みたいですから」
帰り際、彼は僕にそう言って困ったように微笑んだ。「傷見えてましたし」と言う彼は、どこまでも周りを見える人間だと思う。
その傷を見て即座に【僕ではない】と判断してくれた理由はよく分からないが。
「捕まるときは一緒に捕まりましょう」どこか清々しい表情でそう言って退けてしまう水上に、思わず言葉が飛び出す。思わず、と言ったが、それが本心であることに変わりはなかった。
「……安心して、水上」
「はい？」
「お前が黙認してたことなんて、僕は絶対に口にしないから。捕まるときは、僕が全ての罪を背負ってくよ。だから、なにも気にする必要はない。今日は巻き込んでごめん。ありがとう」
どうか、立派な医者になってくれ。こちらから犯罪に加担させてしまったのに、身勝手すぎる願いだろうか。
一体あの日から今日までで、何度「ごめん」と「ありがとう」を言っただろうか。伊沢にも言った。あの受付の女性にも言った。今日、彼にも言った。
僕は一体何人の人間に迷惑をかけて、何人の人間を巻き込んで、何人の人間に助けられていくのだろう。
僕の身勝手なエゴのせいで、この先何人の人間を、不幸にするのだろう。
「……貴方はいつもそうやって、全部一人で持っていきますよね」
「それくらいしか、僕には出来ないからな」
「それくらいって……羨ましかったですよ、僕は」
「なにが？」
「……貴方の持ってるその、底無しの優しさが」
彼はそれだけ言って、もう二度と振り返らなかった。扉が閉まり、玄関に静寂が訪れる。
羨ましかった。そんなこと言うなら、僕だって彼が羨ましかった。どんな状況になっても物怖じしない姿も、皆に慕われる伊沢のようなカリスマ性も、天才と言う肩書きに遅れを見せない姿も。あげれば切りがないほどに。
この先、また彼と再会する日は来るだろうか。もしもその時が訪れるとしたら、考えられるのは、留置所の中くらいか。なんて。
「……神様、か」
―――こんな奴が神様なんて、ほんと、笑っちゃうよなぁ。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 411人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
阿部葵(プロフ) - 授業中なのに一気読みしてしまった､､、それぐらい面白かったです!! (10月23日 11時) (
レス) @page50 id: 9bdf52cb2f (このIDを非表示/違反報告)
レオ - 涙とともに語彙力が抜け落ちてしまったんですけどいいお話すぎてめちゃめちゃ泣けました。 素敵なお話ありがとうございました (2022年3月1日 5時) (レス) id: 4d31a55c6b (このIDを非表示/違反報告)
みそら - ほんっっっとにいいお話でした！もう涙が止まらないし、、心臓鷲づかみにされました。素敵なお話ありがとうございました！ (2021年8月13日 3時) (レス) id: b1ecf40e27 (このIDを非表示/違反報告)
百舌鳥(プロフ) - あああ!(泣)なんだよ、涙で前が見えねぇよ!!。こんなことならティッシュじゃなくてハンドタオル準備するんだった!!。､､､誘拐事件のニュースを見ただけでどっちが悪いかを自分も考えなきゃいけない。頭ではわかっても本当に裏側を見る努力を自分はしてなかったんだな (2021年8月3日 21時) (レス) id: 47ce5ea5c1 (このIDを非表示/違反報告)
神ちゃん - 感動すぎて号泣です。今までで、一番良い話でした！泣きすぎて語彙力がなくなってしまいましたが、とりあえず、素敵なお話でした！この作品を書いてくださり、ありがとうございます。 (2021年7月3日 21時) (レス) id: 2fdd422fa8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
