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寝室に戻ると、丁度水上が聴診器を鞄にしまっている所だった。彼は入り口で突っ立っている僕に気づくと、こちらを安心させるように優しく微笑み、「大丈夫ですよ」と一言。
「……本当に？」
「はい。高熱で気を失っただけです。何時間か寝れば、子どもなんですぐに良くなりますよ」
それより早く冷やしてあげてください。そう彼に言われた僕は急いで氷水に浸したタオルを絞り、長めの前髪を横にどけ、小さな額に乗せる。
心なしか安らかになった表情に、常に入れっぱなしだった肩の力がストンと落ちた。
比較的、僕は冷静な人間だと思っていた。
けれどAと生活をするようになって、全くそんなこと無かったと気づかされた。ショッピングモールで迷子になったときも人目を憚らず走り回ったし、今なんて、水上が居なければきっとなにも出来なかった。
僕の中で、この子は一体どれほどの存在になってしまっているのだろう。
いつか別れが来ると分かっているのに、どうしてこんなにも、愛おしいと思ってしまうのだろう。
「……あの、河村さん。聞いても良いですか」
「……良いよ。大体予想できるし」
Aの一回りも二回りも小さい手を握って、ベッドの横にしゃがみこむ。
あんなにも苦しそうな呼吸を繰り返していた彼女は、今は規則正しい寝息を立てて眠っている。それだけが、今の僕の救いだった。
恐る恐ると言った様子で話しかけてきた水上に、一つ頷く。彼が聞かんとしていることは、子どもの行動とは違って大体予測できていた。
「―――その子、確か数か月前から行方不明になってる【神崎A】ちゃん、ですよね」
「そうだよ」
間髪入れず肯定した僕に、背後で彼が息を呑んだ気配がした。
分かっていた。記憶力が良い彼ならすぐテレビに出ていた【神崎A】と、今安らかな眠りについている【A】が、同一人物として結びつけられることなんて。
それでも、助けてほしかった。苦しんでいたAを、早く救ってほしかった。
僕が告げたたった四文字の「そうだよ」で、彼は全て察した様子だった。
なのに水上はなにも言わず、ただ黙って僕とAを見つめていた。非難も、肯定もしなかった。それが、今の僕にはありがたかった。
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阿部葵(プロフ) - 授業中なのに一気読みしてしまった､､、それぐらい面白かったです!! (10月23日 11時) (
レス) @page50 id: 9bdf52cb2f (このIDを非表示/違反報告)
レオ - 涙とともに語彙力が抜け落ちてしまったんですけどいいお話すぎてめちゃめちゃ泣けました。 素敵なお話ありがとうございました (2022年3月1日 5時) (レス) id: 4d31a55c6b (このIDを非表示/違反報告)
みそら - ほんっっっとにいいお話でした！もう涙が止まらないし、、心臓鷲づかみにされました。素敵なお話ありがとうございました！ (2021年8月13日 3時) (レス) id: b1ecf40e27 (このIDを非表示/違反報告)
百舌鳥(プロフ) - あああ!(泣)なんだよ、涙で前が見えねぇよ!!。こんなことならティッシュじゃなくてハンドタオル準備するんだった!!。､､､誘拐事件のニュースを見ただけでどっちが悪いかを自分も考えなきゃいけない。頭ではわかっても本当に裏側を見る努力を自分はしてなかったんだな (2021年8月3日 21時) (レス) id: 47ce5ea5c1 (このIDを非表示/違反報告)
神ちゃん - 感動すぎて号泣です。今までで、一番良い話でした！泣きすぎて語彙力がなくなってしまいましたが、とりあえず、素敵なお話でした！この作品を書いてくださり、ありがとうございます。 (2021年7月3日 21時) (レス) id: 2fdd422fa8 (このIDを非表示/違反報告)
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