▼ ページ48
．
「……A……？」
恐る恐る、その名前を呼ぶ。セーラー服に付けられた名札には、【生徒会書記】のシールと【伊沢】の二文字。
それらを一瞥してから固まっている彼女の瞳を見つめ返すと、みるみるうちに、大粒の涙が溢れ落ちていく。空気が、僅かに揺らめいた。
「かみ、さま……」
神様、待ってるよ。あの伝言通り、Aは僕のことを忘れることなく、ずっと待ち続けてくれていた。忘れたって良かったのに、こうしてちゃんと、覚えていてくれた。
Aの綺麗な涙に釣られるように僕の視界が歪んできたところで、肩にかけていたスクールバックを地面に落としたAが、こちらに駆け出してくる。
大した距離はなかった。なのに何よりも遠かった時間という距離が、徐々に縮まっていく。
僕の腕に飛び込んできたAは、あの頃より何倍も成長していた。くるくると彼女を抱き締めたままその場で数回回って、ゆっくりと着地させる。
顔を埋めたAから漂う香りだけは、変わってるはずなのに、なにも変わらない。太陽の匂いがする。暖かくて全てを包み込むような、Aの匂い。
「神様、神様……私のこと、迎えに来てくれたの……？」
「っそうだよ……A、ごめん……一人にして、ごめん……待っててくれて、ありがと……A……」
周りの目なんて気にする余裕は無かった。ただ目の前の存在を確かめることに手一杯で、呼吸もままならないまま、Aを抱き締め続ける。
お互いに呼吸が安定してきたところで、Aの顔を覗き込むように肩に手を置いて体を少し離す。額をコツンと合わせると、泣いていたからか、それともずっと僕の胸に預けていたからか、熱すぎる程のAの体温が直に伝わってきた。
「A、ただいま」
君を幸せにすると誓ってから、二人で幸せになろうと約束してから、随分と時間がかかってしまった。今更その約束を果たそうなんて、遅すぎだろうか。君はもう、別の幸せを見つけてしまっただろうか。
だとしたら、そう言ってくれ。僕は君をまた抱き締めることが出来ただけで、成長した君を見ることが出来ただけで、誰よりも幸せだから。期待なんかさせる前に、僕を……突き放して。
相変わらず自分に自信がない僕の頬を、Aは離さないとでも言うように両手で包み込む。八重歯を覗かせて微笑むAの瞳は、涙の影響か、より一層輝いて見えた。
▷
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 411人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
阿部葵(プロフ) - 授業中なのに一気読みしてしまった､､、それぐらい面白かったです!! (10月23日 11時) (
レス) @page50 id: 9bdf52cb2f (このIDを非表示/違反報告)
レオ - 涙とともに語彙力が抜け落ちてしまったんですけどいいお話すぎてめちゃめちゃ泣けました。 素敵なお話ありがとうございました (2022年3月1日 5時) (レス) id: 4d31a55c6b (このIDを非表示/違反報告)
みそら - ほんっっっとにいいお話でした！もう涙が止まらないし、、心臓鷲づかみにされました。素敵なお話ありがとうございました！ (2021年8月13日 3時) (レス) id: b1ecf40e27 (このIDを非表示/違反報告)
百舌鳥(プロフ) - あああ!(泣)なんだよ、涙で前が見えねぇよ!!。こんなことならティッシュじゃなくてハンドタオル準備するんだった!!。､､､誘拐事件のニュースを見ただけでどっちが悪いかを自分も考えなきゃいけない。頭ではわかっても本当に裏側を見る努力を自分はしてなかったんだな (2021年8月3日 21時) (レス) id: 47ce5ea5c1 (このIDを非表示/違反報告)
神ちゃん - 感動すぎて号泣です。今までで、一番良い話でした！泣きすぎて語彙力がなくなってしまいましたが、とりあえず、素敵なお話でした！この作品を書いてくださり、ありがとうございます。 (2021年7月3日 21時) (レス) id: 2fdd422fa8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
