氷上のプリンスと目覚めぬ歌姫 (ページ16)

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16話ページ16

「今日もお疲れ様です。」

私はそう言って、羽生選手にタオルを渡す

ありがとうございます、と彼はタオルで汗を拭きながら水の入ったペットボトルを手に取った

「…あの、踏み込んだ話で申し訳ないのですが…。コーチの方や、関係者の方々は…？」

いつも彼一人で来るので、ずっと不思議に思っていたことだった

「…あー、んーと…。」

歯切れが悪い羽生選手に、「言えないことでしたら大丈夫です。申し訳ないです。」と謝罪すると、戸惑うように彼は答えた

「あ、いや違うんですよ。…その。いま実は療養中で。」

「…はい？」

今この人は療養中と言ったのか？

ならなんで練習をしに来ているんだ？

「…ということは、ここには関係者の皆様に黙って来ていると？」

頬をぽりぽりと掻きながら彼はこう答えた

「…あはは。まあ、はい。」

「帰ってください。」

羽生選手をぐいぐいと更衣室の方へ押していく

「いや！療養中って言っても痛みもうほとんど無いですし、あっ本当ですからね！」

私に押されながらも抵抗をする羽生選手

「ちゃんと治療に専念してください！帰ってください！」

「いや、練習したいんですよ。羽生結弦として」

「私は！！！」

なかなか更衣室へ向かってくれない羽生選手へ、堪忍袋の緒が切れた私は大声を出す

「"スケーターとしての羽生結弦"も大好きですけど、その分"一人間としての羽生結弦"も大好きです！だからちゃんと治療して、楽しそうに演技をする羽生選手が見たいんです！！」

まくし立てるように話した後、私は誰になんてことを…と思い、謝罪をしようとした時

「…わかりました。今日はこれで帰ります。」

優しく、そして少し困ったように笑う羽生選手は、エッジカバーを付け、更衣室へと向かって行った

「…やらかした。」

そうは思っても、時すでに遅し

私は項垂れた状態でベンチに座った