ページ ページ22
「っせんぱい、」
けれどやっぱり、諦めることもできなくて。
お別れの駅前までの道のりで、 先輩を引き止める。
なるべく平常を装って、バクバクうるさい心臓の音は聞こえないふりをして。
「なんだ」
全身真っ黒な彼が振り向く。
夕日が逆光で顔がよく見えない。
もうそろそろ、日が沈み始めた。
誘うなら、今しかない。
「ご飯、行きませんか？ まだ私聞きたいことがあって……�爛�フレコ�瓩如�
先輩の真っ黒な目が、じっと私を見つめている気がした。
街ゆく人たちが遠退いていく感覚。
世界が二人きりになる瞬間。
先輩が口を開いた。
「……駄目だ」
「……何か、用事でもあるんですか？ 私は別に今日じゃなくても───」「駄目だ」
動揺が隠せず、焦って早口になった私の言葉を、先輩の声ははっきりと蹴った。
「……どうして」
「取材に関係のないことなら俺は喋らん。おまえももう」
大人だろ。
そう言って先輩は歩き出した。私の方なんて見向きもせず。
じゃあどうして、この前抱いたんですか。
そんな疑問をぶつけるほど、私も子供じゃない。
一夜限りの関係。
結局は、そういうことだった。
先輩も、変わってしまったんだ。
いや、もしかしたら、私が知らなかっただけかもしれない。
あの一晩だけ、私は先輩を手に入れたような気になれた。
触れた唇の熱も、私を抱いた腕の力強さも。
そのどれもを、覚えているのに。
彼にとってそれは、ただのお遊びにしか過ぎなかった。
結局、七年越しの告白は、また届かなかった。
その事実にショックを受けたけど、それ以上に。
七年も経っているのに未だに変われていない自分が、地に足のつかない自分に呆れてしょうがなかった。
残りの取材は流れるように終わった。何事もなく。
今までの取材をもとに記事をまとめていく。
一番楽しいはずの時間なのに、全然気分は上がらない。
記事の確認の電話だってしたくない。
もう顔だって見たくない───というか見られないし、声だって聞きたくない。
一刻も早く先輩を、忘れたい。
だって忘れられたらきっと、この胸の痛みも、なくなるだろうから。
「A、イレイザーヘッドの記事なんだけど」
楓が後ろから回転式の椅子に座ったままやってきた。
手には何か書類が。
「ん？」
「これさ、うちより小さい出版社なんだけど、過去にイレイザーを取材したとこあったみたい。参考になればと思って」
わざわざ記事をコピーしてくれたみたいだ。
「ありがとー」
「どういたしましてー」
楓が自分のデスクに戻る。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 41人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Able(プロフ) - ぬっこさん» コメントありがとうございます！！遅くなり大変申しわけありません！リクエスト (？)ありがとうございます！ストックしてあるお話が途中なのでそれが終わってからにはなりますが、書かせていただきますので気長にお待ちください！ (2020年8月9日 11時) (
レス) id: cf9458e2c4 (このIDを非表示/違反報告)
ぬっこ(プロフ) - またまた読み返しております!! ほんとに大好きな作品です（´-` ）主さんのペースで更新していただけるとこちらも嬉しいです！ ｢君に誓う｣のマイクside読んでみたいなって思いました（´-` ） (2020年8月1日 22時) (レス) id: fb813ea952 (このIDを非表示/違反報告)
can(プロフ) - ぬっこさん» 返信遅くなりごめんなさい、コメントありがとうございます！稚拙な文章ですがそう言っていただきありがとうございます！他作品の方にもコメントしてくださりありがとうございます。リアルが忙しくなかなか更新できませんが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 (2020年5月30日 16時) (レス) id: 756994877b (このIDを非表示/違反報告)
ぬっこ(プロフ) - あああ、やばい切ない...好きですこの作品。 (2020年5月15日 12時) (レス) id: fb813ea952 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Able | 作者ホームページ：
作成日時：2020年4月30日 23時
