ページ ページ13
相澤さんは、答えを解りきったような顔をして私に聞いた。
「……答えたくなければそれで結構ですが、神崎さんはあいつのことが好きですか」
なんて野暮なことを聞くんだろう。
そんなの愚問だ。
鼻を啜りながら私は答えた。
「好きなわけないじゃないですか」
「……」
「あんなに私を甘やかしてファーストキスまで奪って骨抜きにしておきながら、いきなり避けだして挙句他の女性と結婚して……」
「……」
「それで絶望してた私にこんな仕打ち……好きっていうよりもむしろ……」
「……」
「……愛してる」
瞼の裏にはひざしにいちゃんの笑顔。
四年前のあれは、私を守るための演技だったんだね。
ひざしにいちゃんは、わかっていたから。
ずっと一緒にいられないことも。
いつかはお別れをしなければならないことも。
いつまでもあなたに甘えてばかりの私を、守るために。
二人一緒に傷つくぐらいなら、あなたが自分を犠牲にして、私を守ってくれた。
私たちが築いたあの関係は、
二人で背負うには重すぎて、手放すには惜しかった。
胸がぎゅっと苦しくて、腕の中のブーケを抱きしめた。
壊さないように、優しく。
「……ならブーケの中、探ってみてください。 じゃあ俺はこれで」
「え、あ、あのっ……ありがとうございました！」
去っていく背中に感謝を叫ぶ。
すると相澤さんはこちらを向かずぺこりと頭を下げた。
言われた通りにブーケの中を探って、出てきたそれに思いが雫となってまた溢れた。
それは私が以前あげたものと全く一緒のもの。
けど、返還なんかではない。
ずっとずっと、一緒だったんだね。
私たちの想いは。
お揃いの栞。
私があのとき落とした誕生日プレゼント。
キキョウの押し花の栞。
紫の五つの花弁が、空色の和紙についている。
私があげたものは蜂蜜色の和紙だった。
ひざしにいちゃんの髪色と同じ色。
紫の花弁が五つついたその花が、どうしようもなく愛おしくてしょうがなかった。
お手洗いに行きお化粧直しをしてひざしにいちゃんの元に向かう。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔を晒してしまったと思うと、相澤さんに対して少し申し訳なかった。
私が近づくと、ひざしにいちゃんは相手をしている人を他所にすぐに私に気がついた。
そして腕の中にあるブーケを見てくしゃりと愛おしそうに笑った。
その日初めて、私はひざしにいちゃんをちゃんと見れたような気がした。
＊＊＊
キキョウの花言葉、『永遠の愛』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 41人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Able(プロフ) - ぬっこさん» コメントありがとうございます！！遅くなり大変申しわけありません！リクエスト (？)ありがとうございます！ストックしてあるお話が途中なのでそれが終わってからにはなりますが、書かせていただきますので気長にお待ちください！ (2020年8月9日 11時) (
レス) id: cf9458e2c4 (このIDを非表示/違反報告)
ぬっこ(プロフ) - またまた読み返しております!! ほんとに大好きな作品です（´-` ）主さんのペースで更新していただけるとこちらも嬉しいです！ ｢君に誓う｣のマイクside読んでみたいなって思いました（´-` ） (2020年8月1日 22時) (レス) id: fb813ea952 (このIDを非表示/違反報告)
can(プロフ) - ぬっこさん» 返信遅くなりごめんなさい、コメントありがとうございます！稚拙な文章ですがそう言っていただきありがとうございます！他作品の方にもコメントしてくださりありがとうございます。リアルが忙しくなかなか更新できませんが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 (2020年5月30日 16時) (レス) id: 756994877b (このIDを非表示/違反報告)
ぬっこ(プロフ) - あああ、やばい切ない...好きですこの作品。 (2020年5月15日 12時) (レス) id: fb813ea952 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Able | 作者ホームページ：
作成日時：2020年4月30日 23時
