Story326:不死川side ページ39
「単刀直入に言おう。実弥、こちらに残りなさい」
挨拶を済ませた後、呼吸をするように紡がれた言葉に不死川は息を呑んだ。
「そ…れは、どういう意味でしょうか」
「玄弥がこちらに残る。君は彼の幸せを切望していた。そして今の玄弥の幸せは、君と共にあることだ。…何か他に、理由が必要かい?」
「ですが、輝利哉様は」
「先ほども伝えたとおり、私や産屋敷家に義理立てする必要はない。…実弥は実弥の生きたいように生きればいい。私が見たかぎり、そして父が願う限り、それはこちらで玄弥と一緒に過ごすことだと思うのだけれど、違うのかい?」
「耀哉様が…?」
輝利哉から伝えられたことに、不死川の表情が曇る。どういうことか理解ができないのだ。そんな彼に、輝利哉は伝えた。弟を守るためとはいえ、愛する弟に冷たく辛く当たる選択をした不死川が一番辛いだろう。彼と玄弥が笑って過ごせる未来を作りたい。そう耀哉が語っていたと。
それは不死川に限ったことではない。胡蝶姉妹もそうだし、竈門兄妹もそうだ。だが不死川兄弟の場合は、彼ら自身の特殊な体質によって互いが互いに遠慮をし、すれ違うことを繰り返していた。その本心を知っている耀哉だからこそ、強くそう願っていたのだ、と。
「そんな…こと、を…」
「無限城で玄弥が死んでしまったこと、実弥が戦い抜いてくれたこと、本当に謝罪したいし感謝もしたい。…実弥は、玄弥と共に過ごしたくはないのかい?」
「そんなことは、決して…!ありえねぇ…っ」
「なら、その心のままに決めるといい。…それは、私や父の願いとも重なるのだから」
「…輝利哉様っ、耀哉様…っ!ありがとう、ございますっ…!」
不死川の瞳から、涙が溢れる。傷だらけの頬を濡らし、畳にポトリと落ちた。
「実弥は素直になれないところがある。あまり意地を張りすぎないようにね」
「はい…っ」
「Aさんのことを、よく支えてあげておくれ」
「はい…っ!」
「実弥はこれから、どうやって生きていくのか…楽しみだね」
「…決めてなかったので、わかりませんが…」
甘露寺や時透のように、何かをしていたわけではない。胡蝶や冨岡のように、ここに残ることを決めていたわけでもない。
彼の未来は、まだ見えない。だからこそ。
「俺はちゃんと、生きます」
「…幸せを、願っているよ」
(これから何をするのか)
(俺自身がワクワクする)
(こんな気持ちは初めてで)
(楽しみなのに涙が止まらねぇ)
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灯霧(プロフ) - シンヤさん» コメントありがとうございます。いまとてもバタバタしているのですが必ず更新いたします! (2022年7月19日 21時) (レス) id: e0bf1f0d56 (このIDを非表示/違反報告)
シンヤ(プロフ) - 続きとても楽しみにしています (2022年7月14日 2時) (レス) @page47 id: 42d6be6a70 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - pppさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて光栄です!この先をどう進めていこうかというなは決めているのであとは書く時間だけなのですが…なかなか難しくて申し訳ありません。でも最後までやりますのでお待ちください! (2022年5月23日 14時) (レス) id: 58548306cb (このIDを非表示/違反報告)
ppp - この作品が好きで最初から何度も読み返してます。更新、なかなか大変かと思いますが、続きを楽しみにしております。 (2022年5月22日 20時) (レス) id: f728de7b66 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - むるさん» ありがとうございます、励まされます! (2022年3月28日 21時) (レス) id: 58548306cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2021年12月4日 15時