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Story312 ページ25

その後何件か回って、しのぶちゃんのお目当ての参考書を一通り揃えた。家に帰ってそれぞれに戦利品を分配して、その後行冥さんを呼ぶ。


「どうした?A」
「その…ちょっとおせっかいかなって思ったんですけど、お伺いしたいことがありまして」
「なんだ?」
「行冥さん、点字は読めますか?」
「存在は知っている。だが学んだことはない。…特に、困っていたわけでもないからな」
「そう、ですか」


彼が失明した経緯は、知らない。傷があるから、後天的なものなのだろうという予想がつくくらいだ。そこまでききたいとも思ってなかった。私が知りたいのは、そういうことではない。


「行冥さん、元の世界に戻るにしてもまだ時間がありますよね。こちらで一人で行動できないというのは、不便じゃないかなって思って。バスに乗ったり電車に乗ったりするときに、点字がわかるのとわからないのとでは、違うかなぁって…」
「ふむ…確かに、こちらの世界では不便かもしれない。カラクリ相手では、決まった答えしか聞けないからな」
「それに、元の世界に戻っても便利かなって、そう考えたんです。さっきお店で、点字の教科書…みたいなものを見つけたので」
「そうだったのか」
「…余計なお世話、ですかね。行冥さん、普通に生活していらっしゃいますし」


段々と自信がなくなった私が俯けば、大きな大きな手が頭に乗った。優しく、私の頭を撫でてくれる。


「Aは本当に、優しいな。ありがたいことだ」
「行冥さん…」
「煉獄や時透たちがお前に心惹かれる気持ちも、わかる。他人のことに対して、お前は優しすぎるくらい優しいのだ。…あの時代では、なかなかそういう人物はいなかった。否、どの時代でも、きっとこの平和な時代であろうとも、お前のような存在は稀有なのだろうな」
「…そんな、ことは」
「確かに、盲目になってからしばらくは苦労した。だが今ではそれもない。…それでも、気遣ってくれる気持ちを迷惑だなどと思うことは、ない」


いつもなら涙を流すところだろうに、行冥さんは微笑んでいた。


「教えてくれないか、A。私もこの時代を、もっと良く知りたい。いつかここを離れるとしても、全てを忘れてしまうわけではないのだから。お前の知る世界を、もっと理解して生きていきたいのだ」
「…はい!頑張ります!」


(やさしい、暖かい)
(この娘は、いつもそうだ)
(守りたいと思う)
(慈しみたいと願う)
(幸せであってほしいと、心底願う)

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灯霧(プロフ) - シンヤさん» コメントありがとうございます。いまとてもバタバタしているのですが必ず更新いたします! (2022年7月19日 21時) (レス) id: e0bf1f0d56 (このIDを非表示/違反報告)
シンヤ(プロフ) - 続きとても楽しみにしています (2022年7月14日 2時) (レス) @page47 id: 42d6be6a70 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - pppさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて光栄です!この先をどう進めていこうかというなは決めているのであとは書く時間だけなのですが…なかなか難しくて申し訳ありません。でも最後までやりますのでお待ちください! (2022年5月23日 14時) (レス) id: 58548306cb (このIDを非表示/違反報告)
ppp - この作品が好きで最初から何度も読み返してます。更新、なかなか大変かと思いますが、続きを楽しみにしております。 (2022年5月22日 20時) (レス) id: f728de7b66 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - むるさん» ありがとうございます、励まされます! (2022年3月28日 21時) (レス) id: 58548306cb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:灯霧 | 作成日時:2021年12月4日 15時

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