Story309 ページ22
古本屋を巡りながら、私は考える。みんなのこともそうだけれど、私自身のことも考えなければいけない。引っ越した先でまたバイオリン教室を開くとしても、それ一本で食べていける自信は…あまりなかった。あとは教室をする場合、その場所を確保する必要がある。このコロナ禍で、わざわざバイオリンを習いに行かせる親がどれくらいいるだろうか。
「資格でも取ろうかなぁ…」
赤本や参考書、過去問の棚と睨めっこをしているしのぶちゃんを横目に、資格の棚をざっとみる。とりあえず職に有利そうなのは、社労士、宅建、簿記、秘書あたりかな。司法書士とかでもいいかもしれない。なんにせよ見てみないと始まらない、と簿記の本を手に取って。
「…うわ」
「どうしました?Aさん」
「先月まで悩まされてたいろんなものを改めて見て、嫌気がさした」
仕分けとかもうほんと、やだ。思わず本を閉じて棚に戻せば、しのぶちゃんがコロコロと笑う。
「Aさん、数字苦手ですものね」
「そうなんだよねぇ。経理とか死んでもやりたくなかったのに…でも資格としては有能なんだよ…」
「結果数字とお付き合いすることになっても、その資格取りたいですか?」
「……イヤデス」
「向き不向きは誰にでもありますよ。そんなに気を落とさないで。それよりここはもう大丈夫です。次にいきましょう」
「ふぇい」
ぽん、と肩を叩かれて、歩き出す。そうだよなぁ、向き不向きは絶対にある。無理してもいいことがないのは、大学で経験済みだ。
「…小芭内が、インターネットのショップを開くのはどうしたらいいのかって聞いてきたんだけど、どういうことだと思う?」
「おそらく、甘露寺さんの手作りのアクセサリーが商売になるかどうか、知りたいのでしょう。インターネット上であれば、いざ帰るとなった時の店仕舞いが簡単ですからね」
「そりゃ、実際に土地と建物使うわけじゃないしねぇ。…確かに蜜璃ちゃん、いっぱいいろんなもの作ってたけど」
「今ではロ○トやハ○ズ常連ですよ。かなり凝ったものを作り始めてます」
「そうなんだ…!?知らなかった…」
帰るか残るか、まだ決めていない二人。でもそれなりに力になろうとしてくれていて、その気持ちが嬉しかった。思わずハンドルをベシベシ叩く。
(みんな、少しずつだけど)
(ちゃんと前を向いて歩こうとしてくれている)
(それが何より、嬉しかった)
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灯霧(プロフ) - シンヤさん» コメントありがとうございます。いまとてもバタバタしているのですが必ず更新いたします! (2022年7月19日 21時) (レス) id: e0bf1f0d56 (このIDを非表示/違反報告)
シンヤ(プロフ) - 続きとても楽しみにしています (2022年7月14日 2時) (レス) @page47 id: 42d6be6a70 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - pppさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて光栄です!この先をどう進めていこうかというなは決めているのであとは書く時間だけなのですが…なかなか難しくて申し訳ありません。でも最後までやりますのでお待ちください! (2022年5月23日 14時) (レス) id: 58548306cb (このIDを非表示/違反報告)
ppp - この作品が好きで最初から何度も読み返してます。更新、なかなか大変かと思いますが、続きを楽しみにしております。 (2022年5月22日 20時) (レス) id: f728de7b66 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - むるさん» ありがとうございます、励まされます! (2022年3月28日 21時) (レス) id: 58548306cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2021年12月4日 15時