Story306 ページ19
その後、地方移住するならという候補として、福島の会津や和歌山県なんかが出てきた。温泉好きな宇髄一家は、温泉があると最高だという。元々きこりをしていた無一郎は、山の中の方が好きらしい。義勇は竹林の中に住んでいたと言ってたけど、さすがに条件が細かすぎて却下。土地を買った暁に勝手に作っていけばいいという方針に落ち着いた。そして、一番の問題。
「しのぶちゃんの進学、か」
「…そう、ですね。できれば医大に入って、ちゃんと医者になりたいものですが…」
今まで医者としても活動していたしのぶちゃんは、こっちに来てからも調剤師や医療事務の資格について勉強していた。だがやっぱり、あくまで補助的な役割だ。医者には医者の領分がある。
「自分で処方したり診断したりすることができないというのがここまでストレスに感じるとは…。計算外です」
「でも逆に考えれば、しのぶちゃんは職に困ることはないよ。国立大学に入れるなら、学費も多分…なんとか、なると思う」
「そうだね。僕の株も合わせれば、将来的に見ていい投資にもなる。胡蝶さんは医者になる方針でいいんじゃない?」
「ですが、それではみなさんの負担が大きすぎます」
自分のしたいこと、やりたいこと。それを今、しのぶちゃんは尻込みしている。この世界に来て、現在の貨幣価値や大学という高等教育を受けるための施設、それにかかる時間と費用という問題が目の前に積み重なっているから。
だからこそ、ここは私が言わなきゃいけない。
「ねぇ、しのぶちゃん。私が音楽大学卒業したって、知ってるっけ?」
「え、ああ…以前お話に聞いたと思いますが」
「音楽大学ってね、場所によっては医学部よりお金かかるんだ。しかも医者と違って、必ずその職につける保証はない。むしろ音楽一本で生きていくっていうのは一握りの人間にしかできなくて、そういう未来が見えていたからお父さんはひどく反対したの」
あの優しくて凡庸な父が、あの時だけは頑として首を縦に振ってくれなかった。それはもちろん学費の問題もあったんだけれど、それ以上に。
「その四年間が無駄にならないか、本当に後悔しないか。それを心配してくれてたんだよね。お父さんは。…実際私は、音楽を嫌いになりかけたこともある。挫折もした。結局今だってアマチュアオーケストラで弾くのが精一杯だし、教室の生徒もそんなに多くない」
(厳しい現実を突きつけられて)
(それでも、思う)
(あの時のこと、後悔していない)
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灯霧(プロフ) - シンヤさん» コメントありがとうございます。いまとてもバタバタしているのですが必ず更新いたします! (2022年7月19日 21時) (レス) id: e0bf1f0d56 (このIDを非表示/違反報告)
シンヤ(プロフ) - 続きとても楽しみにしています (2022年7月14日 2時) (レス) @page47 id: 42d6be6a70 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - pppさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて光栄です!この先をどう進めていこうかというなは決めているのであとは書く時間だけなのですが…なかなか難しくて申し訳ありません。でも最後までやりますのでお待ちください! (2022年5月23日 14時) (レス) id: 58548306cb (このIDを非表示/違反報告)
ppp - この作品が好きで最初から何度も読み返してます。更新、なかなか大変かと思いますが、続きを楽しみにしております。 (2022年5月22日 20時) (レス) id: f728de7b66 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - むるさん» ありがとうございます、励まされます! (2022年3月28日 21時) (レス) id: 58548306cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2021年12月4日 15時