story626 ページ38
「私は、出会いに恵まれた。それを実感したのは、仙水との戦いの最中だ」
訥々と、語り出す。今の涼の、偽りない気持ちを。
「なんで私だけがこんな目に遭うんだって、何度も考えた。影縫のことも、左京も、私をこんな目に合わせた全員を憎んだ。コエンマから話を聞いた時にあんたを恨む気持ちが無かったかと聞かれたら、あったと言える」
その瞬間、大竹に緊張が走った。涼が何を言っても、彼はきっと信じない。涼に対しての先入観が、彼をそうさせているからだ。
「でも、もういいよ」
「……なに?」
だからだろう。涼がそう告げた瞬間に、大竹が声を発したのは。
「閻魔大王は私を殺そうとした。大竹は実行しようとした。恨んでないと言ったら、嘘になる。でもアンタらに復讐した所で、院の子供たちや院長先生、ママ先生が戻ってくるわけじゃない。私の人生が戻ってくるわけでもない。…許すつもりはねぇよ、そんなの無理だから。でもこれ以上、アンタらにどうこうしようとは思ってねぇ」
「では、何を思って生きる?」
「別に、特別な事はしねぇよ。仲間と共に生きて、時には戦って…十年後に笑いながら話せれば、私はそれでいい。穏やかじゃなくても、大切な人と生きていけるだけで幸せだ。和真や幽助、蔵馬に飛影。幻海ばーちゃんと雪菜、静流に螢子。コエンマにぼたん。いつも一緒にいる訳じゃなくても、会えば笑ってバカして、からかって怒って。…私はもう、それだけでいい。だから閻魔大王、それに大竹。アンタらが今後、私の仲間たちに危害を加えるような選択をするなら、その時は敵として戦う。それはアンタらに限らず、その生活を脅かすだれに対しても」
強い意志を秘めた視線で、二人を射抜いた。迫力に圧された大竹が、一歩後ずさる。閻魔大王は、深く息をついた。
「…霊界の行く末は、コエンマが舵取りをする事になる。これからの人間界や魔界との関わり方に儂の意志が関わることもあるまい。だが最後の仕事として、お主に出した暗殺指令は、取り消すよう手配する」
「閻魔大王様!?何故です!」
「儂のやり方はもはや古いのだ、大竹。まだまだ子供だと思っていたコエンマに足元をすくわれ、愚かで取るに足らぬ存在だと思っていた冴木涼は己の意志で復讐よりも生きる事を選択した。その生き様を見守るのも、また一興」
「ははっ…皮肉だな。でも、有難く受けるよ」
(くつくつと笑いながら言う閻魔大王の姿には)
(ほんの少しだけ、親近感を持てた)
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なむなむ - 更新ありがとうございます。完結が楽しみです! (2017年12月20日 14時) (レス) id: a04af66b4a (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - >コメントいただきました皆様:まとめての返信、ご容赦下さい。おまたせして申し訳ございません。年内にはなんとか完結できるように頑張ります! (2017年12月16日 8時) (レス) id: 4638cf4153 (このIDを非表示/違反報告)
pさん - 完結まで頑張って下さい!! (2017年11月30日 9時) (レス) id: b9986b9fac (このIDを非表示/違反報告)
かなた - はじめまして。私のような者が大変烏滸がましいのですが、楽しく読ませていただいております。更新楽しみにしてます。頑張ってください┏○" (2017年10月27日 0時) (レス) id: 184ad4d852 (このIDを非表示/違反報告)
(*^^*)(プロフ) - どうか完結まで頑張って下さい! (2017年10月23日 19時) (レス) id: 734043d3b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2017年7月20日 16時