story592 ページ4
放たれた黒龍波が、躯に迫る。身の丈以上の顎を開いて躯を飲み込まんとする黒龍に対し、彼女はその場にとどまり構えた。
「受け止める気か…！？」
絞り出したような声音で、蔵馬がつぶやく。驚くのも無理はない。飛影の妖力は、武術会の時と比べると天と地ほどの差がある。そして、人間界ではなく魔界で呼び出された黒龍は、その膨大な妖力を喰らって具現化しているのだ。いくら躯とて、一歩間違えれば無事では済まない。
「でも、躯はそれを選んだ」
涼の声が小さく落ちる。躯と飛影が合わせ鏡のような存在だからこそ、逃げるわけにはいかないのだろう。そうわかっている涼のこめかみからも、一筋の汗が流れた。
(飛影…躯…！)
拳を握り締め、二人の戦いの行方を見守る。見届けなければならない。涼は願ってしまったのだから。
「っっぐ！」
躯の両手が、黒龍の上あごから生える鋭い牙を掴んだ。押し返そうとする力に負けず、黒龍はさらに彼女を飲み込まんと口を開く。両足で下あごをつっかえさせ、そのままの体勢で黒龍と躯は宙へと駆け上がった。武術会での武威の時と、おなじだ。違うのは、双方の力の強さ。
(武威も…この試合、どこかで見てんのかな…)
彼はこの光景を見て何を想うだろう。かつての自分と同じように黒龍波を受け止めた躯に。そして、その後の結末に。
(…後で本人に聞けばいいか)
他所に向いたのは意識だけ。視線はモニターに釘付けになっている。黒龍と躯、力の押し合いが続いて…そして。
「躯ぉぉぉおおお！」
「飛影ぃぃいいい！」
躯の姿が黒龍の口内に消えた…と思った瞬間、急激に妖力が跳ねあがった。顎から姿を現した彼女は、左右にその口を開く。口元から、黒龍が真っ二つに裂けた。妖力そのものである黒龍の断裂はすさまじい勢いとなり、飛影を襲う。
「っ、ぐ、ぁあああっ！！」
「飛影！」
衝撃で後方に飛ばされる彼の姿に、堪らず涼が叫んだ。だが、動く事はしない。
(まだ、終わってない)
(戦いを経てなお二人の気持ちがお互いに伝わらなければ)
(私はきっと、これ以上なにもできないのだから)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 55人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なむなむ - 更新ありがとうございます。完結が楽しみです！ (2017年12月20日 14時) (
レス) id: a04af66b4a (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - >コメントいただきました皆様:まとめての返信、ご容赦下さい。おまたせして申し訳ございません。年内にはなんとか完結できるように頑張ります！ (2017年12月16日 8時) (レス) id: 4638cf4153 (このIDを非表示/違反報告)
pさん - 完結まで頑張って下さい!! (2017年11月30日 9時) (レス) id: b9986b9fac (このIDを非表示/違反報告)
かなた - はじめまして。私のような者が大変烏滸がましいのですが、楽しく読ませていただいております。更新楽しみにしてます。頑張ってください┏○" (2017年10月27日 0時) (レス) id: 184ad4d852 (このIDを非表示/違反報告)
(*^^*)(プロフ) - どうか完結まで頑張って下さい！ (2017年10月23日 19時) (レス) id: 734043d3b1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：灯霧
| 作成日時：2017年7月20日 16時
