Story8 ページ9
その日、朝餉を食べた後二人は外に出た。朝露に濡れる藤の下に立ち、Aがその刀…日輪刀を渡す。
「さぁ、まずは持ってご覧」
そう言われて差し出された刀を、両手で受け取った実弥は驚いた。思った以上の重さだ。まぁ鉄の塊と考えれば、当然なのだが。
鞘を持ち柄を持ってゆっくりとその刀を抜こうとすると、待ったをかけられる。
「まずはそれを抜かず、腰に差してごらん」
「腰…?」
「左の腰だね。帯にひっかける感じで」
言われるがままに鍔を帯にひっかけるようにして、刀を差してみる。すると自分でも、身体の中心が揺らぐのを感じた。
「どうだい?身体が傾いてしまうだろう」
「…思っていたより、重いです」
「実弥はまだまだ成長期だからその姿勢でずっといろとは言わないよ。出来上がっていない骨格で無理をすれば、身体がゆがんでしまうからね。だが、この刀の重さには慣れなければならない。鬼殺隊になれば、屋敷で休んでいる時以外は常に帯刀しているようなものだから」
「…なるほど」
「まぁ、少しずつだ。君の身体が出来上がるまでは、ここで面倒を見るつもりだよ」
「なっ…つまり、どのくらい?」
「少なくとも十五になるまでは。…実弥、君は今、幾つだい?」
「…十二」
「では最低三年間は、ここで暮らしてもらう。なに、三年もあるんだ。少しずつ身に着けていけばいい。…焦りは禁物だよ」
一刻も早く鬼殺隊に入りたい実弥の気持ちを先回りして、Aはふふ、と笑う。無論、その笑顔の裏にある言葉は『それが不満なら他の育手を自分で探しなさい』だ。この二週間でわかったが、香風Aという女は来るもの拒まず去る者負わず。自分のやり方に文句があるなら、いつでもここを去りなさい、という人間だった。つまり彼女に従わなければ、彼女の技を身に着けることはできない。それが実弥には、どうしてもいやな事だった。
「…わかり、ました」
「不満そうだけれどねぇ…。まぁいい。それでは今日は、帯刀したままいつものように食事の支度と薪割りを頼むよ。今日の洗濯は私がしよう。午後になったら、山歩きの練習だ」
「その時も帯刀したままですか?」
「手に持ってもらう。杖替わりにしてもかまわないよ」
「わかりました」
食材集めてきます。といって藤の花の向こうに消えた彼を、Aは微笑んで見送る。
「本当に、困った子だ」
(己の幸せは求めず)
(弟の幸せを求める)
(その不器用な姿勢を)
(愛しく感じた)
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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時