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Story7 ページ8

力を持つ責任。それを、Aは問うているのだ。齢十二歳の子供には、難しいかもしれない。だがそれを手にするのならば、年齢など関係ない。

真剣な彼女の瞳に、実弥はうつむいた。彼自身の中で、まだ消化しきれない問題なのだ。

弟妹が死んだ。それを為したのは、鬼と化した母だった。唯一生き残っていた弟を救うために無我夢中で殺した母を見て、その弟に非難された。

彼の中で、消えない傷。


「……俺は」
「君の鬼を憎む理由。鬼を滅したいと思う意味。それがわからなければ、私は君にこの刀を預けることはできない」


きっぱりと言い切ったAに、実弥はうつむいた。怪しくも自分を惹きつけるその刀を取りたい。その刀で、鬼を滅したい。だがそれを為すには…自分の認めたくない事実を口に出さなければならない。


「実弥。なぜ君は無茶な鬼狩りをしてまで、鬼を滅したいと思ったんだい?」


ただ静かにそう聞いてくるAに仕方なく口を開いたのは、それから一刻後のことだった。



―――――



実弥の過去を聞いたAは、なるほどね、とつぶやく。


「それで君は、何を思って鬼狩りをする?」
「…俺は家族を守れなかった。でも、玄弥だけは生きてる。…玄弥には、普通の幸せを味わってほしいんだ。嫁を貰って、所帯持って、家族ができて、ジジイになるまで生きて、そして死ぬ。そこには俺が…ぜってぇ、鬼なんか来させねぇ。そのためにも俺は、鬼を皆殺しにしなきゃならねぇんだ」
「ふむ…。では、君の幸せは?」
「俺の?…そんなの、どうでもいい。俺は玄弥が幸せになってくれれば、それでいいんだ」


それしか祈ることはできない。そう呟く彼は酷く小さく見えて、Aはさらにため息をつき、天井を見上げた。煙管を咥え紫煙をくゆらせ、ふぅ、と息を吐く。


(齢十くらいの子供が考えることじゃない。それまでの人生もそうだが…鬼の…鬼舞辻無惨の襲撃は、それだけ実弥に大きな影響を与えた…ということか)


母親が鬼になったと言うのなら、それはすなわち、鬼の始祖である鬼舞辻無惨の襲来を意味する。そう考えたAは、やれやれと額に手をあてて首を振った。


「なるほど。実弥の事情はわかった。気持ちもまぁ…表面的には理解した」
「なら俺に、刀を教えてくれるのか?」
「…そうだね。君の願いがあくまで弟を守るという願いに基づいているのならば」


(教えない理由は無い)
(そう言いながら)
(彼女は悲しそうな顔をしていた)

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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時

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