Story6 ページ7
実弥がAの元に来て、二週間ほど経ったある日の夜。
「う、ぅ……」
隣の部屋から聞こえてくる唸り声に、Aはため息をついた。
(ここに来てから二週間…。毎日、うなされている)
ぷか、と紫煙をくゆらせながら、自分の弟子になろうとしている少年の事を思う。
(鬼に対する強い憎悪はわかるが…そのことについての悪夢でも見ているのか。にしても…)
肉体的にはもちろんだが、精神的に強くなければ、鬼殺隊として…その隊士として、戦う事などできない。ましてや、仲間や友人を守ることなど。
「どうしたもんかねぇ…」
小さなつぶやきは、木の壁に吸収されて消えていった。Aの吐き出す紫煙のごとく。
翌日の朝。
「これが日輪刀だよ」
朝餉の前に、囲炉裏の前で初めて刀を抜いて見せた。その輝き…深緑の文様が刻まれた刀に、実弥の視線が釘付けになる。
「この刀は、一年中陽が刺す『陽光山』という場所で取れる、玉鋼と言われる特殊な鋼を加工した刀だ。この刀で鬼の頸を斬るか、日の光を浴びせる事でしか、鬼を殺すことはできない」
「…じゃぁ、粂野が持っていた刀は」
「鬼殺隊の隊士が持っている刀は、すべて日輪刀だよ」
シャキン、とそれを鞘に仕舞い、どこかぼーっとしている実弥をAは見つめた。
「最終選別を突破すれば隊士として認められ、この日輪刀を鬼殺隊から支給されることになる。つまりいずれは、君も真剣を扱えるようになってもらわないといけない。…それを踏まえて、君に今一度覚悟を問う」
「あ?…また仲間を守るとかそういうこと…か?」
「いいや、違う。この刀は鬼を滅する刀。…だが人を傷つけることができる刀でもある。その力を持つ覚悟があるかどうか…。鬼を滅するためだけに、この力を振るう覚悟があるかどうか」
Aの目が、すっと細くなった。
「君の過去を聞くことで、それを受け入れ、乗り越え、克服していることを示してもらう事で、その覚悟を問うとしよう」
「なっ…‼深入りはしないって…!」
「そう思っていたんだけれどね。どうも君は、過去に…自らの行いにとらわれ過ぎている気がするんだよ。そうでなければ、毎晩うなされたりはしまいよ」
「っ」
何も言い返せなくなった実弥をじっと見つめるAの視線は、変わらない。
「怒りや復讐心にとらわれて刀を振るえば、鬼だけでなく人も傷つけることになる可能性がある」
(だからその可能性を)
(少しでもなくすために)
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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時