Story43 ページ44
シャリ、シャリ。
小さな音と共に、ハラハラと実弥の銀髪が地面に落ちる。すっかり結べるくらい長くなってしまった髪を、Aが小刀で削いでいるのだ。
「であった頃は確か、このくらいまで切っていたように思うけれど」
「たぶん、その辺ですかね」
「ここに来る前は、どうしてたんだい?」
「…おふくろが、切ってくれてましたよ。その後は、やってねぇけど」
「そうかい」
しばらく無言が続く。風に吹かれて、銀髪が舞った。後ろ髪、横紙とやって前髪をやるために回り込んできたAを、実弥は見上げる。
「師匠」
「ん?」
「俺は、鬼が憎い。鬼を生み出した鬼舞辻無惨が、心底憎い」
「…ああ。目を閉じて」
髪の毛が目に入らないように注意をする彼女の言葉に従い目を閉じながら、実弥の拳にぎゅっと力がこもった。
「俺の家族を奪った鬼が憎い。俺と同じ目にあうような奴を作り出す鬼が、憎い」
「うん」
「だから俺は鬼を倒す。すべて倒して、滅して、殺して、無惨のクソ野郎も殺して」
「うん」
「そのために俺は生きてる。だから」
「だから実弥は、自分を傷つけることをためらわない…かい?」
終わったよ。そう言って離れた彼女の言葉に、ゆっくりと目を開く。決意をみなぎらせた瞳でAを見上げた。
「俺の血が鬼退治に使えるってぇなら、使わない理由がねぇ。たとえ俺自身を犠牲にしても、俺は鬼を殺しつくす」
「それは許さないと、そういっても?」
「師匠に嘘はつけねぇ。だからハッキリ言う。無理だ」
「…そうかい」
きっぱりと言い切った彼に、Aは目を細めた。悲しそうに笑う。短くなった髪を、するりとなでる。
「最終選別は終わった。君はもう、立派な剣士だ。…だから、それを止めようにも私には手段がない。悲しいことだけれど。…だから、私にできるのはこれだけだね」
手が離れた。立ち上がり、空を見上げ、そして彼女は再び実弥を見る。見たこともない、冷たい視線で。
「不死川実弥。お前を破門にする。…日輪刀が来るまではここで過ごすがいい。だがその後は、一人で生きていくんだ」
「っ…」
覚悟はしていたのだろう。なぜ、とかどうして、どかそんな言葉は出てこなかった。ただ、拳を握りしめる力がさらに増す。
「当然、それくらいの覚悟はあっての発言だろう?」
「もちろん」
「…残念だよ、実弥」
(家に戻ろう)
(背を向けた師匠は)
(もう師匠じゃなかった)
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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時