Story38 ページ39
最終選別終了予定日から、三日たった頃。Aの住む小屋のある山に、実弥はたどり着いた。支給された隊服を手に、狂い咲く藤の花を見る。
「…帰りました、師匠」
そう告げながら扉を開けた瞬間、硬い何かに鼻をぶつけた。
「ぁ?」
「いってぇ…!ンだy」
何かと思い視線を上げた彼の視界に入ったのは、真っ黒な布に包まれた…筋肉隆々の、背中?その上には、自分と同じような銀髪。思わず言葉を止めると、それは振り向いた。ちゃんと人の形をしている。
「…あー、お前が不死川か」
「…誰だテメェ。ここになんの用だァ」
感じない殺気に、実弥は反応した。最終選別でも折れなかった借り受けた日輪刀の柄に手を当てた瞬間、自分の首に冷たい感触。
「血の気が多いねェ。客人かそうでないかくらい、確認しろよ」
「っ!」
目にもとまらぬ早業。首筋にピタリと当てられたのは、小刀…苦無か?なんにせよ、尋常な速さじゃなかった。息をのんでいる実弥の耳に、コロコロと鈴を転がしたような笑い声が聞こえてくる。
「天元、そういじめないで上げておくれ。言っただろう?実弥は警戒している野良猫なんだよ」
「誰が猫だァ!?」
「そういうところだよ、実弥」
聞こえてきた言葉に思わず突っ込めば、容赦なく笑われて。巨大な男も、苦無を引っ込めてクツクツと笑っていた。
「お帰り、実弥」
その向こうに、自分が慕ってやまない師匠の姿を認め、その姿がいつもと変わらぬ姿であることに内心ほっとして。
「…ただいま帰りました、師匠」
もう一度、そうつぶやく。小さく頭を下げれば、うん、とうなずかれた。
「さて、実弥。早速だけれど紹介しよう。彼は宇髄天元。これからしばらく、一緒に住むことになった」
「…は!?」
「彼と、彼の奥方が三人。五人で仲良く暮らそうね」
「はぁ!?」
奥方が三人。この男と一緒に暮らす。仲良く。…仲良く!?
いろんな情報が入ってきて混乱する実弥を見下ろしていた天元が、目を細める。
「おいA。こいつ、本当に俺より強いのか?」
「速さと地の力強さは、天元のほうが上だろうね。だがそれ以外は、今のところ実弥が上だよ。鬼との戦闘経験も含めてね」
「ほーぉ。…おもしれぇ。おい不死川、俺と手合わせしろ」
「……はぁ!?」
(なんでこうなったのか)
(俺がいない間に何があったのか)
(とにかく目の前にいる大男の言葉が)
(まったく理解できねェ)
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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時