Story34 ページ35
「ねぇ、天元」
「んー?」
昼になっても、天元は里に戻らなかった。水浴びをするAの護衛を申し出てくれて、Aは一日ぶりに髪を洗うことができた。適当に魚を捕り、その場で火を起こして焼き魚にして二人で食べる。
「天元は天翔とは違う額当てをしているのだね。とてもきれいだ」
「ああ、派手だろう?忍としちゃーどうなのかって思うけどな、俺の姉貴と弟が、好きだったんだ」
「兄弟は何人?」
「九人。…今は俺と天翔しか残っちゃいねぇけどな」
「…そうかい」
「これはな、弟が初めての任務で褒美にもらった宝石を付けたものなんだ。その弟は俺ともう一人の姉貴をいっとう好いていてくれてな。…三人でおそろいにしたんだよ」
でも死んじまったけどな。ぽつりとつぶやく彼の声音が、寂しそうに聞こえた。空を見上げる彼を、Aはじっと見る。
「…俺は、親父が嫌いだ。親父の考え方も嫌いだ。その考えが、風習が、俺の兄弟を死に追いやった。でも…鏡を見るたびに、あいつとそっくりの目元が、赤い目が、俺を見つめてくる。だから鏡を見るのは嫌いなんだよ」
「…それはもったいないね。天煌よりもきれいな、赤い瞳なのに」
彼がまるで泣いているようで、Aはそっと手を伸ばした。白く女性らしい手が、彼の頬に触れる。親指の腹で、目元をそっとなぞった。
「ならば天元。良い提案がある」
「提案?」
「天元が好きなものは何だい?」
「は?好きなもの?…まぁそうだな、花火…か?」
「ならば、少し私に身を任せてくれないかな」
「…何する気だよ」
「なに、ちょっと化粧を差すだけだよ」
確かこのあたりに、とAが腰帯に引っ掛けた巾着をあさった。手に取ったのは、小さな円形の…つまり、紅だ。
「目をつむって」
「?…変なこと、するなよ」
「ふふ、たぶんね」
楽しそうに笑う彼女を見てから、天元は言われるがままに目を閉じた。少し上を向いて、と言われ、顎をあげる。そのまま動かずにじっと待っていれば、左目の周りを彼女の指がなぞるのが分かった。
「さぁ、できたよ。水面を見てごらん」
「…なんだよ」
意味が分からず、とりあえず言われるがままに川を覗き込んだ。そして、息をのむ。
(大嫌いな、親父と瓜二つの目元)
(そこに派手な花火が足されて)
(親父じゃねぇ、俺でしかありえない俺が)
(驚いた顔で俺を見ていた)
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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時