Story33 ページ34
その日の夜は、鬼が現れなかった。日が昇るとともに、Aは里を出て周囲の山へと入る。水場を探し歩くこと、しばらく。
「私の後をつけているのは、誰かな?」
足を止めて穏やかな声音でそう問いかければ、ガサリと葉擦れの音が聞こえた。それすらわざと出した音なのだとわかるほど、わざとらしいものだったけれど。後ろを振り返れば、そこには縦にも横にも大きい…銀髪の青年が一人。
「アンタが、文の香風か」
「そういう君が、宇髄天元、かな」
「ああ」
二人は距離をとったまま、相手の様子をうかがう。どこまでも穏やかに笑うAは、つい、と視線を流した。
「なるほど、目元が天煌によく似ているね」
「…あまりうれしくはねぇけどな。それより、こんなところまでやってきて何をしている?」
「水場を探しているのだよ。君の御父上から言外に、夜以外は里にいるなと言われているのでね」
どこか知らないかい?と柔らかく問いかける彼女をじっと見た後、天元はにやりと笑う。
「この先に、渓流がある。案内してやる」
「それはうれしい。ついでにいろいろと話もしたいが…可能かな」
「ま、大丈夫だろ」
ついてきな、と言って、天元は歩き始めた。そのあとをAが追う。
「それで天元。いきなりでぶしつけとは思うが、御館様とはどうして顔を合わせたんだい?」
「あ?任務だよ、任務。産屋敷家の人間を全員殺せってな」
「…それはまた、思っていたより過激な任務だね。…それで?」
「仕えている人間まで全員ってことだったから、嫁たちも連れていった。様子をうかがってる時分に、輝哉様にあっさり気付かれてな。忍の名が廃るってもんだ」
「まったくだねぇ。…それで?」
「…参ったよ。てっきり護衛でも来て殺されると思ったのに、笑ったんだ」
その光景が、見えるようだ。そう、Aは思う。彼なら、そうだろう。あの特殊な声音を持った、そして強く優しい輝哉ならば。
「人を生かせる仕事に就く気はないか。そういわれた。忍の…暗殺をしに来た、当人にだぜ?だから俺は、あの人についていくと決めた」
「それに、忍は性に合わない…かな?」
「?なんでそう思う?」
普通に振り返って問いかける彼に、Aが笑いかけた。
「だって天元は、天煌や天翔のように感情を抑えている様子がないからね」
「…アンタ、何者だよ」
「ちょっと長生きして人生経験のある、元鬼殺隊さ」
(彼と話している間に)
(美しい渓流にたどり着いた)
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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時