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Story24 ページ25

夜、月が中天に登った頃。すやすやと寝息を立てて眠る実弥のツンツンしている髪を柔らかくなでてから、Aは立ち上がった。一度部屋を出ていき水屋へ向かって、用意したのは徳利とお猪口、そして煙管と煙管箱。それらを手に部屋の縁側に戻り、夜空を見上げながら酒を飲み紫煙をくゆらせる。


(実弥…。お前に必要なのは、心の休息なんだよ)


弟子の心が、悲鳴をあげている。容赦のない現実に、突き付けられた絶望に。Aは決してそうは思わなかったが、彼は自分の特殊な血が原因で鬼を呼び寄せたと自分を責めているのだ。そうでなくとも母親殺しという罪過が、彼の背にはのしかかっている。


「たかが十四の子供が背負うようなことではあるまいよ…。まったく、世の中は世知辛いねぇ」


ふぅ、と紫煙をくゆらせながら、考える。実弥は決して、休もうとはしないだろう。師であるAが止めても、進むのをやめない。いや、もしかしたら止めるAを鬱陶しがって、ここから離れてしまうかもしれない。そうなれば、もうAにはどうしてやることもできない。

彼に限ったことではない。鬼のいるこの世界では、ある意味『ありふれた事』だ。鬼に家族を殺された憎悪、家族を鬼にされて成すすべなく逃げてきた者たちの悲しみ、そういう感情の集まりが、鬼殺隊の根っこ。


(だが事情と…そして誰かのせいにできない実弥の性格が、災いした)


自分を追い詰めることしかできない、哀れな弟子を思う。そうしなければ、自分が立っていられないのだ。わかる、理解はできる。だが、それはとても生きづらいことも、Aは知っていた。


「…ししょ…」


小さな声に振り向くと、ぼやっとした顔でこちらを見る実弥。上半身を起こして、彼女の姿を探している。その姿が、まるで母を探す子のように見えて。


「…ここにいるよ、実弥」
「…あぁ……酒なんて、また飲んでるんですか。なにかつまみ食わなきゃ、胃に悪いすよ」


Aの手元にあるものに気付いた彼が、小言を言った。まったく、と立ち上がるその手を、引っ張る。


「なんですか。何か作ってほしいモンでも?」
「…実弥。明日から、また頑張ろう」
「は?何を当たり前のことを…」
「実弥。これだけは約束する。私は決して、君の前から消えたりしない。…絶対にだ」


そう呟けば、彼は顔をそらす。


「…そんなの、わかんねぇじゃないすか」
「いや、わかる」


(これだけは)
(絶対に言い切れる、未来だ)

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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時

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