Story22 ページ23
その後、目隠しをした実弥を背負ったAが一刻ほど走ってたどり着いたのは、産屋敷の家だった。さすがに輝哉に合わせるわけにはいかないが、ここで調べてもらうのが一番だ。産屋敷家付きの医師のもとに連れ込んだ、というわけだった。
血液を抜いて検査をしている間、待合代わりにあてがわれた和室で実弥は正座をし、膝の上で両手を強く握りしめていた。Aもまた、何を話しかけるでもなく、時折ふぅ、と息を吹きかけて風車を回すだけ。決して和やかとは言えない、ピリピリとした空気だった。
「失礼いたします」
足音をほとんどさせずにやってきたのは、産屋敷家に仕える医師その人だった。すっと襖を開いてやってきた男性が、ちらりと部屋の隅で固まっている実弥を見てからAのほうへやってきて、畳に座る。
「お疲れ様、健太。急なことで悪かったね」
「いえ、香風様の頼み事とあれば、御館様のことを除いてすべてを差し置いてでも」
「ふふ、言葉に矛盾があるよ。…それで？」
どうだった？と聞く彼女に、健太と呼ばれた男性は真顔になった。
「…稀血で間違いありません。しかもこの濃度…。私は初めて見ました。今までの隊士に稀血がいなかったわけではありませんが、記録上のどの稀血よりも濃い稀血…といえます」
ピクリ、と実弥の肩が動く。ギリリ、と拳を握りしめる力が強くなる音がした。
「そうかい。…通常の稀血だと、五十から百人分の人間と同等の栄養価…と言われているが、実弥の血の効能は、さらに強い…と？」
「おそらくは。試すのも恐ろしいですが、数値化するならば…理論上、常人と同じ摂取量を鬼が摂取した場合、得られる力は常人千人分といっても過言ではないと思われます」
「それは……また、予想以上の数値だね」
さすがにAも驚いて、目を丸くする。健太も、どうしたものか、とため息をついた。
「…じゃぁ、やっぱり俺のせいじゃねぇかァ……ッ」
今まで一言も話さなかった実弥の、絞り出すような声が部屋に響く。
「俺が、こんな血ィ持ってるからっ…！だからお袋は鬼にされてっ、ことや修也たちも…っ、くそぉ、クソがァッ！」
がんっ！小さな拳が何度も畳に打ち付けられる。その力が強く、畳のイグサはめり込み、ささくれ、拳に傷を作った。だがAは止めない。健太も彼女のその様子を見て、止めようと動いた体を止めた。
(俺がっ、俺のせいで！)
(家族が！)
(あいつらの幸せを、俺が奪った…！)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 27人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます！修正させていただきました！これからも読んでいただけると幸いです！ (2021年3月21日 20時) (
レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥＆サソリLoveさん» コメントありがとうございます！そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。（←）これからも頑張ります！ (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます！更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです！ (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程！納得！（←） (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：灯霧
| 作成日時：2020年12月1日 16時
