Story18 ページ19
結局、山小屋に戻ったのは夕方ごろの話だった。お土産に山の麓の町でおはぎを買って戻ってきたAを出迎えた実弥は、どこか仏頂面である。
「こんな遅くなるなんて聞いてない」
「悪かったって。ほら、これで機嫌を直しておくれ」
「アンタは師匠じゃねェのかよォ。…ったく、一日鍛錬が潰れた」
ぶつくさ文句をいいながら、ちゃっかり両手はおはぎの包みを手にしている。そんな子供らしいところがかわいくて思わず髪をわちゃわちゃと撫でれば、鋭い目つきでにらまれた。そんな彼を横目に自室へと向かったAは、ふぅ、とため息を吐く。
(思っていた以上に、現状が変わっていない。むしろ、鬼の数が以前より増えている気がする。御館様や柱たちの話を聞くに、下弦の力もだんだん上がっているようだ。…隊士が増えるより先に、より強い下弦が誕生して、今までの下弦が下弦落ちになり、十二鬼月に戻ろうと躍起になって人を襲う…。負の輪ができあがってしまっているね…)
すでに柱を引退しているとはいえ、一応鬼殺隊に籍を置いている身だ。これからは今までより積極的に鬼を狩るべきだろう。…だが、懸念があった。
「…やれやれ、不便な身体になったものだ」
もっとも、この身体になったからできたこともあるのだが。首を左右に振り、厨へと向かう。夕餉の支度をしている実弥の後ろで棚から取り出したのは、とっくりと一升瓶。
「…酒飲むんですか。珍しいですね」
「まぁ、たまにはね。飲まなければやっていられないこともあるんだよ。…実弥はもう少し、大人になってからだね」
「はぁ…。じゃぁ酒のつまみ作りますか」
「そうだね、なにかお願いできるかい?」
はいはい、と言って包丁を動かす彼をじっと見つめる。実弥もまた成長したら、あの隊服を着て日輪刀を持ち、そして鬼を退治するだろう。彼の才能なら、きっと最終選別は突破できる。問題は…その後。
(…さりげなく、匡近に頼んでおくかな…。まぁあの子のことだから、私が頼まなくても積極的に絡みにきそうだけれど)
今でも文で実弥の様子を聞いてくる様は、まるで弟離れできていない兄のようだ。修行中は決して来るなと釘を刺しているからこちらに顔を出すことはしていないが、それさえなければ任務が終わるたびにここに来そうな勢い。
(匡近と実弥)
(この二人が)
(いい方向に作用すればいいと、心から願う)
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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時