Story10 ページ11
少し進めば、いろんな客引きが声をかける。それにAはいちいち、そして楽しそうに答えていた。客引きだけじゃなく通りを走り回っていた子供たちに群がられたり、通りすがりの男性に顔を真っ赤にしながら声をかけられたりしても、にこやかに対応をする。
「…ずいぶん人気者なんだなァ」
「ふふ、そう思うかい?…ああ、ここだ。お邪魔するよ、女将」
一軒の店に入っていったAについていく。中には反物がずらりと並んでいた。この規模の町にしては、かなりの大店だ。
「この子に二、三着、着物をあつらえてほしいんだよ。動きやすい服装でね」
「おやおや、新しいお弟子さんですか?」
「まぁ、そんな感じかな」
女将とAの会話が聞こえてきて、そちらに視線を移す。まるでAが弟子を取っていることを知っているような会話だったが、と考えていれば、壮年の女性がこちらへと歩み寄ってくる。実弥の傷を見て、泣きそうな顔をした。
「ああ…きっと辛い思いをしたんでしょう。でも大丈夫、香風さんなら、きっとあなたを強い鬼狩りに育ててくれるから」
「…鬼の事を知っているのか…?」
「ああ。…この町はね、香風さんに救われたんだよ」
ちょっと採寸しますね、そう言って紐を取り出す女将の言葉に、驚く。思わずAを見れば、苦笑を浮かべていた。
「救ったなんて、大げさな。私は偶々、鬼の気配に気づいて斬っただけさ。いわば自分の仕事を全うしただけなんだよ」
「それでも、私たちは救われたんですよ。逃げ惑っていた私や町の人間たちを助けたのは、間違いなく貴女ですもの」
手ばやく採寸を終わらせた女将が、だからね、と実弥に笑いかける。
「香風さんに修行をつけてもらえるなんてとても光栄な事なんですよ。厳しいかもしれませんがきっとやり遂げて、たくさんの人を救ってくださいね。未来の鬼狩り様」
「……あ、あぁ…」
「やれやれ、私を持ち上げるのはそのくらいにしておくれ。…それでどうだい?」
「そうですね、この子ならばこの辺りのお色がお似合いになるかと」
反物を選び始めた二人の背中を、じっと見る。
彼女が町の人間に慕われるには、それなりの理由があった。
自分がそんな風に、なれるのだろうか?
(…いや、その必要はない)
(慕われる必要なんて)
(俺はただ、鬼を皆殺しにするだけだ)
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灯霧(プロフ) - 陽さん» コメント、ご指摘ありがとうございます!修正させていただきました!これからも読んでいただけると幸いです! (2021年3月21日 20時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
陽(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませていただいています。…が、一つご指摘失礼します。宇随、ではなく、宇髄、です。直していただけるとありがたいです…細かいところをすいません。失礼しました (2021年3月21日 19時) (レス) id: 9d67b7c326 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 実弥&サソリLoveさん» コメントありがとうございます!そう言って下さる方がいて控え目に言って最高です。(←)これからも頑張ります! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - 玄弥さん» コメントありがとうございます!更新不定期でごめんなさい、でも頑張りますので見守っていただけると嬉しいです! (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
灯霧(プロフ) - みぃむぅさん» ああ成程!納得!(←) (2020年12月29日 17時) (レス) id: 94f5b58c39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯霧 | 作成日時:2020年12月1日 16時