story44 ページ45
フェイタンがいなくなり、Aは様々な本を片っ端から手に取る。驚いたことに、ジャンルは統一されていない。多いのは人体に関しての本や拷問の歴史、美術書や音楽書、シナ国の本やジャポンに関する本などだ。
(シナ国は…言葉が読めないからなぁ…)
かと言って芸術書を読むには基礎知識が足りないだろう。ならば、自然と手にする本は限られてくる。『拷問、その歴史と変遷』と『人体解体図』の二冊。ハードカバーのそれを持って、窓際に置いてある椅子に腰を下ろした。身体に負担がかかりづらい造りをしていて、ゆったりと読むことができそうだ。
夕方になり、ようやくAは本を閉じた。疲れた目を軽く揉みながら、笑顔を浮かべる。
(面白い…精製できる毒の種類も増えたし…フェイタンの拷問術が手慣れていたのにも納得だなぁ)
とにかく実戦的な技術を身につけるために一番手っ取り早いのは、得た知識を実績すること。おそらく彼は、取り入れた知識をすぐに試みたはず。そうでなければ、意識を失うか失わないかのギリギリ、または死なない程度の痛みを与えるという技術は身につかなかっただろう。言葉通り身体で体験したAには、よく分かった。
「随分楽しそうだね」
「…っ、びっくりした…」
不意に声をかけられ、閉じていた目を開ける。部屋の入口に、クロロが佇んでいた。今日は何故か、オールバックではなく髪を下ろしている。
「えーと…団長？」
「はは、この格好をしている時は、クロロと呼んでほしいな」
雰囲気もどこか柔らかく、口調も少し砕けていた。彼なりのオンオフなのだろうと、頷く。
「クロロね。了解。…それで、いつからそこに？」
「一時間くらい前かな。夢中で本を読んでいる姿が、微笑ましくて」
「声かけてよ…」
ずっと見られていたのだと思うと、気恥ずかしくなってきた。うわぁと顔を両手で覆ったら、笑われる。
「昨日までの凛とした…ツンツンしてたAもいいけど、俺は今のAの方が好きだな」
「…いや、まぁそれはお世話になると決めたわけだし、そういう事になった以上、アンタら敵じゃないでしょ。…味方かどうかはさて置いて」
(含みのある言い方をしたら)
(何故か満足そうに頷かれた)
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作者名：灯霧
| 作成日時：2017年6月25日 15時
