story37 ページ38
「へくし！」
ずぶ濡れAがフランクリン(ボランティアで動いてくれた)に連れ戻されて、十分後。着替えと手当を済ませたAが髪を拭いているのを、他のメンバーがマチとフランクリン同様呆れた目で見ていた。
「今どき雷にビビって窓から落ちるとか、普通に無いぜ…」
「言ってやるなよ、ノブナガ。Aは元々、雷が嫌いだったじゃねぇか」
ウヴォーギンの言葉に、そうだ、と顔を上げる。先ほどマチにも、そんなニュアンスの事を言われた。
「…それは、過去の私の事か？」
「あ？他に何があるんだよ」
問い返してくるウヴォーギンに、いや、と肩を竦める。ただ長年(と言ってもたかが五年間だが)の疑問が少し消化されただけだ。
「ほら、こいつもこれでいいだろ」
Aと同じようにタオルを包んでいたマチの腕から、黒猫の頭が飛び出てきた。ボロ雑巾のようだった毛が、ふわもこくらいに戻っている。気になるのか、床に降りた子猫は毛繕いをし始めた。
「手間をかけさせた。すまない」
主に手を煩わせた二人にペコリと頭を下げると、マチは報酬上乗せね、と言ってフランクリンは気にするなと首を振る。
「確認するが、逃げようとした訳じゃないんだな？」
「逃げる？どこに。私の帰る場所や逃げ込む先なんて、どこにもないだろう」
クロロの問いかけにさらっと答えれば、本当かよ、という視線に晒された。それを受けて、Aは言葉を続ける。
「私の経歴は調べたんだろう？私は五年間、ずっとマース組にいた。組員以外の人間との接触なんて、ほとんど無い。そんな状況で、どこに逃げ込むと言うんだ。心当たりがあるなら教えてくれ」
「…確かにな。ではそういう事にしておこう」
(私の言葉を信じていない発言にも)
(別に気持ちが揺れる事は無かった)
(なんにせよ、私はコイツらの仲間じゃないのだから)
(疑って然るべきだ)
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作者名：灯霧
| 作成日時：2017年6月25日 15時
