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story35 ページ36
幸い、ここは二階のようだ。落ちても多少の怪我で済むだろうと判断して少しずつ身体を動かし、窓の外に上半身を乗り出す。
にゃー。
小さな声に下を向くと、真っ黒な猫がいた。まだ小さい、フワフワモコモコの子猫のようだ。ぐっと身を乗り出して、手を伸ばしてみる。てっきり引っ掻かれるかと思ったが、猫は擦り寄ってきた。
「迷子…？」
指に触れた硬い感触に、目を凝らす。毛むくじゃらな上に夜闇で見えなかったが、首輪が付いていた。届くか届かないかの距離で指先に顔を擦り付ける子猫を見ていたら、風が吹いた。音もなくシトシトと降っていた雨が、いきなりバタタタタッとけたたましい音を立てる。
「う、わっ！？」
顔を上げた瞬間、ドオォンッ！と雷が落ちた。バランスを崩して無様に窓の外へと転げ落ちる。
「…いたた……」
まだ治りきっていない全身の傷が痛みを訴えた。激しい雨にすでにずぶ濡れな状態だったが、部屋に戻ろうと立ち上がろうにも足に力が入らない。右の太股が焼け付くように痛んで、今の拍子に傷口が開いたのだと悟る。
にゃー。
また声が聞こえて、はっと猫の存在を思い出した。どうやら潰してはいないようだが、フワフワだった毛がぴっとりとくっついて、ボロ雑巾のような様相になっている。
「…こっち来る？」
手を伸ばして抱き上げても、文句は言われなかった。借り物のシャツの胸元に猫を入れ、抱きしめる。
(五年前から怖かった雷)
(空が光る度に、両手で耳を塞ぐ)
(胸元にいる温もりだけが)
(私の恐怖心を抑えていた)
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作者名：灯霧
| 作成日時：2017年6月25日 15時
