長い悪夢の救世主【wrwrd】 (ページ45)

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45夜目ページ45

立ち上がらない私を鬱くんは心配そうに見つめる

｢Aちゃん？｣

差し出してくれた手も取れずに私は、ただ俯く
鬱くんの顔が見れなかった

『ごめんなさい...』

｢何を謝っとるん...？大丈夫やで、悪いのはAちゃんやないから｣

『違うの』

もう分かってた
あれは幹部なんかじゃなくて観光客だって
でも、それでも、信じきれてない自分が居ることが嫌だった

｢何が違うん？｣

私と視線を合わせるためにしゃがみこんで優しく声をかけてくれる

『私、みんなのことを疑った。きっとこれも実験なんだって
みんなもあの国の人達と一緒で、実は全部嘘で、新しい実験のひとつなんだって』

ちゃんとした文章になってない言葉を何も言わずに聞いてくれる
ただ静かに私の言葉に耳を傾けてくれた

『鬱くんにこんな無茶させて、沢山怪我させて迷惑かけて色々してくれたみんなのこと信じられなくて、私は、あそこに帰っちゃいけないよ』

ぼろぼろと涙が溢れては流れた
鬱くんは何も言わない

それが救いのようで、でも怖かった

そっと頬を挟まれて顔を上げさせられた
歪んだ世界に深い青色が映る

｢僕は君に害は加えへんよ。だって、仲間やから。｣

目を見開いた

｢僕だけじゃない。みんなもそうや、だぁれもAちゃんに害を加えへん
だから、な？みんな待っとる。心配しとるから、帰ろう｣

何かが、砕けた気がした
ずっと心の奥にあった冷たい何かが、砕けて、無くなった
その代わりに流れてきたのは温かいもので

頬を伝う涙が止まらなかった

鬱くんは柔らかく笑って涙を拭ってくれる
嗚呼、こんなに優しいのに私は
何を疑ってたんだろう

彼は、
長い悪夢の様な日々から救ってくれた
私の救世主(メシア)

立ち上がった鬱くんが差し出した手を握って、手を繋いだまま歩き出す

森の中は朝日で紅く照らされていて、雨粒でキラキラと輝いていた