長い悪夢の救世主【wrwrd】 (ページ44)

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44夜目ページ44

目を閉じてじっと耐える
寒さを、痛みを

これからどうしたらいいかとか、今は考えなくていい

ーーｶﾞｻｶﾞｻｯ

『っ』

雨に紛れるように草が揺れる音がした
はっと顔を上げて音のなった方へ視線を向ける

もしかしたら、バレたのかもしれない
ロボロの力はすごいから

闇に紛れる何かを見るために目凝らす
黄色い目が、こっちを見つめていた
それは、人の目じゃなくて

オオカミ...!!

誰かが言っていた言葉を思い出す
"夜になったら人を襲う狼が出るんだ"
黄色い目は私をしっかりと捉えていて
ゆっくり、ゆっくりと私の方へ近づいてくる

だんだんとその輪郭がはっきりしてきて大きな体から雨が滴っているのも見える

逃げなきゃ。
でも、逃げてどうなる？
私の足じゃ逃げられない
それに足に力が入らなかった

低い唸り声が近くなって
息遣いでさえもはっきりと聞こえる

最悪の人生だったな。でも、最後は騙されてても楽しかった

目をつぶった。

ﾊﾟｧﾝ

『！？』

大きくて短い音が森にこだまする
はっと顔を上げる
目の前でオオカミが高い声を上げた

2回、3回とその音は鳴ってオオカミは地面に倒れて動かくなった

｢Aちゃんっ！｣

『うつ、くん...？』

鬱くんが私の方へ駆け寄ってくる
その姿はボロボロで、血が滲んでて、びしょびしょで

体がこわばった
でも

｢良かった...!!生きてて、良かった...!!｣

体が、鬱くんに包まれる
私も鬱くんも冷え切っていて決して温かくはなかったけど、ふっと力が抜けて、安心した

そういえば、いつかもあの大きくて短い音に助けられた
確かあれも鬱くんに助けられた時だったかな

ぎゅっと力を込められる

『鬱くん、痛いよ』

｢ちょっとくらい痛がってて...!!｣

『鬱くん...？泣いてるの？』

｢泣いてない、寒いだけや｣

震えてるその声はどうにも泣いてる様にしか聞こえない
ただ、ただ抱きしめられてた

私も鬱くんの背中に手を回す

少しずつ雨の音が小さくなる

『雨、やむよ』

｢そうやな｣

鬱くんは離してくれない
ずっと、ずっとそうしてた

私もそうしてた

空が晴れて茜色に染まり始める

『ねぇ鬱くん、朝だよ』

｢朝やな、そろそろ帰らんとみんな心配しとる｣

鬱くんの名前を呼ぶ
沢山呼ぶ

やっと離してくれて、顔を見合わせた

笑って、鬱くんは立ち上がる
でも、私は立てなかった

足の力が入んないからとかじゃない
怖いとかじゃない

私は、立てなかった