Chapter 14... ページ16
廊下を走って注意してくるような面倒くさい生活指導の教師もいない。
周りに気を払うべき生徒ももういない。
とにかく、目的の人物の元まで一目散に走った。
全力で走れば辿り着くのなんてあっという間。
彼女の姿が見えた所で、考えられもしないほど大きな声量で声をかけた。
「 っおい！！ 」
「 びっ………くりしたぁ… 」
「 あの、さ………っ、…由良。 」
「 うん？どうしたの出水くん。 」
下ろしている髪の毛があざとく揺れる。
言おうか迷ってしまう、が今言わなければ絶対後悔してしまう気がする。
そう思いながらさっき走ったのでは無いのか。
本人を目の前にすると口ごもってしまう。
出水の不思議な様子を見た彼女は優しく、ふんわり笑った。
「 ゆっくりでいいよ。 」
「 ……聞いていいか？ 」
「 ？うん、なあに？ 」
「 なんで、由良のフリしてんだよ。 」
空気が凍った気がした。
気の所為かもしれない。間違いかもしれない。
確証があるわけじゃないしどこがどう違うのが言いきれない。
ただ、違和感を感じたのだ。
それも"由良ではない"と思ったというより、"Aである"と思ったのだ。
自分でも判断基準がAで、恥ずかしいと思った。
考えているより、彼女を想っている事実を。
「 どうして、由良じゃないと思ったの。 」
「 由良じゃないってか…A
不快だったのだろうか。
肩を震わせながら、先程と同じように髪の毛で表情が隠れるように俯く。
自分の発言でこうなったことに動揺していると、ゆっくり彼女が顔を上げる。
その目には涙が溢れそうになるほど溜まっていて。
「 ちょっ……A！？ 」
「 ずるいよ、いずみ。 」
「 ずるっ……はあ！？どういう意味だよそれ！ 」
「 ずるい、そんなの、やめてよ… 」
涙が一粒零れ落ちた。
それが契機となったように、ボロボロと頬を伝って涙が止めどなく溢れる。
彼女が泣いた姿を見るのは初めてで。
それに、言われた"やめて"の言葉。
これも勘ではあるが、決して嫌がっている意味で放たれた言葉ではない気がする。
色んな意味でどうしたらいいか迷った末、彼女の傍にしゃがんだ。
何もすることなく、ただAが泣き止むのを待った。
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作者名：- | 作成日時：2023年5月10日 22時
