おのれ狸：漆拾参 ページ30
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その薬研藤四郎は、ブラック産とは思えぬほど気さくで温かな刀剣男士であった。
流石に主としては見れないようだが、芥子のことを「お嬢」と呼び、予想打にしないスパダリっぷりを無意識に発揮した。
「夜風は体に毒だぜ、お嬢。さあ、この上着を羽織りな」
「いえ、悪いですし上着は…」
「気にすんな…それに、女がそんな格好で容易く男の前に出ちゃいけねぇ」
薬研藤四郎がずいっと耳に顔を寄せた。
「男は皆、獣なんだぜ？」
息と共に吹き込まれた低い囁きに芥子は背中を泡立て、跳び上がった。
後に退いて、脚をダンッ！ダンッ！と鳴らして威嚇する。
「貴方本当に短刀ですか！？破廉恥！！破廉恥です！！」
「なんだお嬢、アンタ耳が弱いのか…」
「言葉責めは不要ですって！！」
甘い声でからかうと過剰な反応を示した芥子がお気に召したのか、薬研藤四郎は口を開けて豪快に笑った。
しかし、夜中であったことに気づいて「おっと」と慌てて口を塞ぐ。まだ他の者たちが寝ているのだった。
鍛刀部屋はまた静かになって、薪の火が小さく爆ぜる音だけが響く。二人は揃ってそれを眺めていた。
「…しかしまぁ、アンタは凄ぇよ」
「え？」
芥子は横に座った男の顔を見た。横顔に映った火の明かりがれゆらゆらと揺れる。
「…俺も、アイツらも生き地獄を見た。所詮道具だと割り切れれば良かったものの、人間の体を持っちまったからには痛みも情も耐えるにゃ限度がある。それでも、道具だからと溜め込んだ結果がこれだ」
「薬研さん…」
どこか遠くを眺める彼の目に、芥子は目を伏せた。脳裏に昔の記憶が過ぎる。
戸を開けた先に見えた、小さいおじいさんの震える背中と囲炉裏の鍋。散らばった木の食器。
どうしました、と声をかけようとして気づいた。床に落ちた何かの皮。
これは…そしてあの鍋の中身は…
目の前がだんだん真っ赤に染まっていく。また、憎しみで前が見えなくなる。
「…だが、アンタの本丸はいい本丸だ」
男の温かな声に、はっと芥子は目を見開いた。薬研藤四郎は微笑んでいた。
彼は芥子の頬を、両手で壊れものに触れるように包む。思わず泣きそうになるような、柔らかな慈母の眼差しに芥子は釘付けになった。
「アンタの本丸で、俺達の兄弟は笑っている。それが何よりの証拠だ」
「薬研さん」
「兄弟達を頼むぜ」
とん、と指で軽く額を押されて後ろに倒れる。
審神者は、布団の中で目を覚ました。
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蒼(プロフ) - 某僕と契約して魔法少女になってよ！！な清光がいて爆笑しました。表紙も大好きです。好きです。 (11月13日 19時) (
レス) id: 2e07dff5be (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 表紙から爆笑でした。ありがとうございました。 (2021年1月29日 18時) (レス) id: 348703d198 (このIDを非表示/違反報告)
夏終朝凪(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです……!!テンポが良くてとっても読みやすかったです(*´▽｀*)続きが気になります(*ﾉωﾉ)気が向いたらで良いので、更新してくださると嬉しいです(о´∀`о)どうかお体に気を付けてお過ごしください。コメント失礼しましたm(_ _)m (2021年1月29日 17時) (レス) id: 8142368f1e (このIDを非表示/違反報告)
イケ(プロフ) - 面白いのにもったいない (2019年11月26日 18時) (レス) id: 85ff92ecab (このIDを非表示/違反報告)
レモン(プロフ) - はじめまして、すごく面白かったです！完結おめでとうございます！ (2018年11月15日 13時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ムカデ | 作成日時：2016年12月11日 23時
