おのれ狸：漆拾弐 ページ29
「〜…」
本丸の主は目を開けた。
いつの間に眠っていたのか。耳が、遠くからの小さな話し声を拾ってぴくぴくと動く。
誰の声だろうと視線を動かすが、暗くて何も見えない。行燈の火は消され、未だ夜が耽ぬ本丸の男達は夢の中。
自分を膝に乗せたままの初期刀も、刀を抱いて
審神者は、起こさないようにそっと体を起こして、窓からの僅かな光を頼りに声の方へと向かった。
廊下は室内よりも外の光が差し込んでいて、不気味だが歩行に支障はない。集音機代わりの耳をかたどったリボンを立てて、声の主を探す。
時々横切る部屋の中からは、魘されるような声が度々聞こえた。まだ、傷が痛むのだろう。
いや、もしかすれば今日持ち込まれた黒本丸の刀剣達の影響かもしれない。そう思うと、怒りがまたふつふつと腹の中で煮えてきた。
ふと顔をあげると、廊下の先にぼんやりと赤らんで見える部屋がひとつあった。確か、あれは鍛刀部屋だ。
今はまったく使っていないというのに、一体誰がいるのだろうか？足を忍ばせて近付き、そっと扉を開けた。
中では炉がチロチロと燃え、手持ち無沙汰そうな小さな妖精たちが椅子に腰掛け、誰かと話している。
誰だろうか？ぼやけてよく見えない。眠い目を擦り、芥子はきゅっと目を細めた。
そこにいたのは小柄な少年だった。
さらさらと揺れる黒い直毛に軍服…粟田口派の刀剣だろうか。
短いズボンからスラリと伸びた白い脚は細く、アメジストのように輝く大きな紫の瞳は、一つの美術品のように美しい。
そういう趣味の人間であれば真っ先に不二子ちゃんダイブするような代物である。
つまり、絶世の美少年。綺麗どころは弊本丸に溢れているが、見覚えのない顔だとすぐに分かった。
「どちら様ですか…」
「お？審神者じゃねぇか！」
「低っ」
そしてこの美少年、意外と声が渋かった。
．
「見てたぜ、昼の騒動。堕ちかけの刀剣を中に引き入れるなんざ剛胆なこった。痺れちまったぜ、お嬢ちゃん」
どっこらせ、と男前な所作で美少年はそこらの床に腰掛けた。外見と中身のギャップが激しい刀剣である。
「お嬢ちゃんはやめてくださいよ〜ぅ。それより貴方は？見かけない顔ですけど」
「俺？俺か」
｢俺は薬研藤四郎。今日あんたが直した刀剣のうちの中の一振りにあっだろう？よろしくな、え〜…お嬢」
薬研藤四郎はそう言って微笑んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1160人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼(プロフ) - 某僕と契約して魔法少女になってよ！！な清光がいて爆笑しました。表紙も大好きです。好きです。 (11月13日 19時) (
レス) id: 2e07dff5be (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 表紙から爆笑でした。ありがとうございました。 (2021年1月29日 18時) (レス) id: 348703d198 (このIDを非表示/違反報告)
夏終朝凪(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです……!!テンポが良くてとっても読みやすかったです(*´▽｀*)続きが気になります(*ﾉωﾉ)気が向いたらで良いので、更新してくださると嬉しいです(о´∀`о)どうかお体に気を付けてお過ごしください。コメント失礼しましたm(_ _)m (2021年1月29日 17時) (レス) id: 8142368f1e (このIDを非表示/違反報告)
イケ(プロフ) - 面白いのにもったいない (2019年11月26日 18時) (レス) id: 85ff92ecab (このIDを非表示/違反報告)
レモン(プロフ) - はじめまして、すごく面白かったです！完結おめでとうございます！ (2018年11月15日 13時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ムカデ | 作成日時：2016年12月11日 23時
