おのれ狸：陸拾伍 ページ21
審神者就任から数日後、本丸は劇的にその姿を変えた。
浄化作用により城の澱みは消え、庭からは鳥の囀りが聞こえる。荒れ果てた畑には種が撒かれ、育った各種の野菜がその大きな実を重そうに抱えた。
それを収穫し、食す刀剣男士たちもその目に少しずつ生気を宿しつつある。
きっと、もう少しすれば他の本丸と同じように戦果を挙げれるようになるだろう。
その証拠に、今日も鍛練場から木刀のぶつかる音と威勢のいい掛け声が聞こえてきた。
「キエエエアアア！！！」
「そりゃーーー！！」
「うおりゃーーーー！！」
「元気ですね〜」
城の主である芥子は、それらをBGMに微笑ましげに書類を片付けていた。
「…そうだね」
「はい、楽しそうで何よりです。」
手伝いをしていた小夜左文字と前田藤四郎は頷いて応える。
芥子も頷き返して、ふと考え込んだ後「お茶にしましょうか」と戸棚に手を掛けた。
元々、暴虐の限りを尽くしたかの男の持ち物だったこの部屋は、まだトラウマ持ちの彼らにとっては近寄り難いものらしい。
芥子が障子戸を開けて出る度に、それを見た者達が怯えを滲ませた表情で固まるのを彼女は何度も見ている。芥子はいい加減前任を抹殺したかった。
しかし、すっかり芥子らしくリフォームされた今では、こうやって善意で手伝おうとしてくれる者達がチラホラと訪れるようになった。
その筆頭が、粟田口を初めとした短刀達である。
「あーっ、美味しそうなの食べてるー！」
ひょこっと顔を覗かせた乱藤四郎が、目敏くその場面を目撃し不満げに叫んだ。
すると、何なに？と次から次に短刀達が光の速さで飛んでくる。
芥子は「しまった」と頭をかいた。ちょっとしたご褒美のつもりだったのに、期待に輝いたその目に見られてたじろいだ。
「あるじさま…おかし…」
「大将…」
「主君…」
この本丸の住人は、大きいも小さいも、美味いものに目が無かった。
まあ、苦境から這い上がって最初に多幸感を味わったのが食事だったのだから仕方ないのことかもしれない。
あの気弱な五虎退でさえ、積極的にお菓子を強請るほどなのだから。
「あるじさま…ぼく…食べたいです…」
上目遣いに、沢山の潤んだ瞳に見つめられれば流石の芥子も陥落せざるを得ない。
「くっ…おねだり上手になって…」
芥子は渋々追加のお菓子を足すことになった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1160人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼(プロフ) - 某僕と契約して魔法少女になってよ！！な清光がいて爆笑しました。表紙も大好きです。好きです。 (11月13日 19時) (
レス) id: 2e07dff5be (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 表紙から爆笑でした。ありがとうございました。 (2021年1月29日 18時) (レス) id: 348703d198 (このIDを非表示/違反報告)
夏終朝凪(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです……!!テンポが良くてとっても読みやすかったです(*´▽｀*)続きが気になります(*ﾉωﾉ)気が向いたらで良いので、更新してくださると嬉しいです(о´∀`о)どうかお体に気を付けてお過ごしください。コメント失礼しましたm(_ _)m (2021年1月29日 17時) (レス) id: 8142368f1e (このIDを非表示/違反報告)
イケ(プロフ) - 面白いのにもったいない (2019年11月26日 18時) (レス) id: 85ff92ecab (このIDを非表示/違反報告)
レモン(プロフ) - はじめまして、すごく面白かったです！完結おめでとうございます！ (2018年11月15日 13時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ムカデ | 作成日時：2016年12月11日 23時
