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外まで送るよ
幸せから離れられなくなる前にそう切り出せば、彼女は嬉しそうに頷いた
外に向かう途中、学校帰りの子供たちや職員とすれ違った
みんな彼女と面識があるはずなのに、誰一人として彼女を見ない
俺にはいつも通り話しかけてくる
なのに彼女には何も言わない
無視してるわけではない
ただ、彼女の存在を認識できてないのだろう
そう気づいてしまったら、スーッと肝が冷えた
外に出ると、だいぶ日が傾いてきていた
じきに終わりを知らせる鐘の音が響く
ただの日常の一コマが、次々と特別なものになっていった
特別だと思うから辛いんだ
そう言われても、こればかりはどうすることもできそうにない
「黛さん」
空を見上げていた彼女が俺の名前を呼んだ
なに?と首を傾げ、振りかえった彼女と視線を交わす
「私、恋愛感情とか抜きで人に抱き着くの好きなんです」
『…?』
「だから一瞬だけ、抱き着いてもいいですか?」
無理なお願いだと思っているのか、彼女はヘラりと笑っていた
断る理由はない
いいよ。というように両手を広げ、「ん」とだけ言うと彼女は一瞬目を丸くした
だけどすぐに目を細め、ゆっくりと腕の中に吸い込まれた
子供たちのように目一杯抱きつくわけでもなく、ただ控えめに、自分以外の誰かと触れているとわかる程度の抱擁
彼女のこの行為は、確かにここにいるのだという証明のようにも思えた
「黛さん…」
『ん…なに?』
「どうか…どうか挫けないで。世界が貴方を裏切ろうと、貴方を支える人たちはいます。直接関われないけど、見守っている人たちもいます。どうか、貴方の、貴方だけの望みを叶えて…」
か細い声で紡がれた懇願に、俺はただ頷いた
それを感じ取ると彼女はゆっくりと俺から離れて行った
「それじゃあ、黛さん。さようなら」
『うん…………“またね”』
ちょっとの反抗心でそう口にすると、彼女は眉を下げて泣きそうな顔で笑った
ずるい人
声には出されなかったけど、彼女の口がそう動いた気がした
日が傾く
真っ赤な夕焼けが、去り行く彼女の背を包み込む
まるで世界の終わりだというように、あたりが夕焼けに染まった
明日はきっといい天気になるのだろう
快晴の空を想像し、俺は自分の部屋へ歩き始めた
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