検索窓
今日:5 hit、昨日:5 hit、合計:51,866 hit

ページ23

.


外まで送るよ

幸せから離れられなくなる前にそう切り出せば、彼女は嬉しそうに頷いた


外に向かう途中、学校帰りの子供たちや職員とすれ違った

みんな彼女と面識があるはずなのに、誰一人として彼女を見ない

俺にはいつも通り話しかけてくる

なのに彼女には何も言わない

無視してるわけではない

ただ、彼女の存在を認識できてないのだろう

そう気づいてしまったら、スーッと肝が冷えた



外に出ると、だいぶ日が傾いてきていた

じきに終わりを知らせる鐘の音が響く

ただの日常の一コマが、次々と特別なものになっていった


特別だと思うから辛いんだ

そう言われても、こればかりはどうすることもできそうにない





「黛さん」



空を見上げていた彼女が俺の名前を呼んだ

なに?と首を傾げ、振りかえった彼女と視線を交わす



「私、恋愛感情とか抜きで人に抱き着くの好きなんです」


『…?』


「だから一瞬だけ、抱き着いてもいいですか?」



無理なお願いだと思っているのか、彼女はヘラりと笑っていた

断る理由はない

いいよ。というように両手を広げ、「ん」とだけ言うと彼女は一瞬目を丸くした

だけどすぐに目を細め、ゆっくりと腕の中に吸い込まれた

子供たちのように目一杯抱きつくわけでもなく、ただ控えめに、自分以外の誰かと触れているとわかる程度の抱擁

彼女のこの行為は、確かにここにいるのだという証明のようにも思えた



「黛さん…」


『ん…なに?』


「どうか…どうか挫けないで。世界が貴方を裏切ろうと、貴方を支える人たちはいます。直接関われないけど、見守っている人たちもいます。どうか、貴方の、貴方だけの望みを叶えて…」


か細い声で紡がれた懇願に、俺はただ頷いた

それを感じ取ると彼女はゆっくりと俺から離れて行った



「それじゃあ、黛さん。さようなら」


『うん…………“またね”』




ちょっとの反抗心でそう口にすると、彼女は眉を下げて泣きそうな顔で笑った

ずるい人

声には出されなかったけど、彼女の口がそう動いた気がした




日が傾く

真っ赤な夕焼けが、去り行く彼女の背を包み込む

まるで世界の終わりだというように、あたりが夕焼けに染まった

明日はきっといい天気になるのだろう

快晴の空を想像し、俺は自分の部屋へ歩き始めた

・→←・



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (84 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
198人がお気に入り
設定タグ:myzm , 2j3j
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:エバ。 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年3月31日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。