閑話 ページ15
Aside
聞こうと思ったわけじゃない
聞きたかったわけでもない
本当に偶然で、タイミングが悪かったとしか言いようがない―――
飲み物を買って研究室に戻ると、部屋の中から先生の声が聞こえてきた
先生がこの時間に研究室に来るなんて珍しい
そんなことを思いながらドアノブに手を伸ばすが、聞こえてきた内容に思わず手が止まった
【あの子のこと大切にしてね。私の大事な作品だ】
普通なら気に留めることなんてない
“あの子”と言うのだって、制作者が作品を擬人化して呼んでいるのかもしれないと考えられる
なのに私は、“大事な作品”というのが私を示していると確信を持った
持ってしまった
あぁ、私のことを伝えているのかと受け入れてしまった
意志とは違うその思考は、私を動揺させるのに十分だった
思わず持っていたペットボトルを落としてしまう程には…
私は私だ
1人の人間であり、誰かの作品ではない
人格の構成だなんてありえない
設定?笑わせないで
私の行動も思考も私が決めたことだ
そうでないと…
そうでないと、私の願いは何だと言うのか
私をここまで突き動かしてきた願いは、用意された、決められたものだったのか…
否定したい
今すぐ部屋の中に入って、先生が言ったことすべて嘘だと言いたい
私は造りものなんかじゃない!…と
言いたいのに…身体が動かない
奥歯を噛みしめ、叫び出しそうになるのを堪えるので精一杯だ
分かっていたんだ
どこかで
気づいていたんだ
ずっと前から
私は普通じゃないと…
でも、それを認めてしまえば、受け入れてしまえば、きっと私は私でいられなくなる
黛さんにだって、拒絶されてしまうかもしれない
扉を開ける勇気があれば、どれだけ良かったか
願ったところで、そんな勇気は持ち合わせていない
今はただ、喉を絞めて、声を殺して、唇を噛んで
溢れ出る涙を堪えることしかできない
この行動すら、プログラムされたものだと言うのなら、バグとしか言いようがない
いや、バグに決まってる
だって、真実を知っただけでこんなに苦しくなる訳が無い
自分のことで、こんなに涙を流せるわけが無い
私が造られた存在ならば
私がただのプログラムならば
私が誰かの作品ならば
好き嫌いがわからないように、人間らしさなんて無いはずだ
人間らしさなんて、要らなかったはずだーーー…
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