scene258 ページ8
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おれが見る景色は、なにもかもが紫色だった。
行き交う人たちは一つの紫の固まりみたいになって、ゆらゆらと揺れている。
通り過ぎる電車の音が耳をつんざく。
『ヒロトくん、気分はどう？』
スマホに繋いだイヤホンから、野坂の声がする。
「ああ……」
おれはなんとなく声を漏らすことしかできなかった。
どうと言われても、自分でもよくわからない。頭はぼんやりとしているはずなのに、自分の奥底からなにか湧き上がってくるようで、でもからっぽなんだ。
高揚した気分と、沈んだ気持ちが交互にやってくる。
握りしめた石が手のひらに食い込む。
こんなに強く光っているのに、どうしてみんな気付かないんだろう。
正気を失っても、この石だけは手放しちゃいけない。そう思って、おれはもう一度強く握り直す。
足元がふわふわして、視界も紫にしか見えない。握りしめたエイリア石の感覚だけがはっきりとしている。
Aもこんな気持ちだったのだろうか。気持ち悪いはずなのに、少し嬉しくなった。
直後に、その考えが既におかしいんだと気付く。
『いい？ 絶対に通話を切ったらだめだよ』
野坂の声が頭の中に反響する。
わかってるよ、うるせえな。
「なあ……今どれくらい経った？」
『まだ５分も経ってないよ』
そうなんだ、もう時間切れなんじゃないかと思った。
『近くにエイリア石の気配は感じる？』
「わかんねえ……」
『位置的にはこの辺りなんだけど……もう少し駅から離れてみようか』
おれは大きすぎる力に呑まれそうになりながら、ふらふらと信号を渡っていく。
こんな人混みの中からAを見つけるなんて無理だろ。いくらエイリア石が共鳴するからって、今のところなにも感じないんだから。
「なあ……野坂」
『どうかした？』
おれは言いようもない虚無感の中にいた。
「おれがしてることって……なんか意味あんのかな……」
こんな目にあってまで、Aを探して。あいつを止める権利なんて、おれにあるんだろうか。
『意味ならあるよ。だれかの為になにかしたいって気持ちが、無意味であっていいはずがないんだ』
立ち止まっていたおれの背中をだれかが押す。おれはつんのめりながら歩き出した。
『そんなの、ぼくが認めないよ。気をしっかり持って』
がんがんと痛む頭を押さえながら、おれは夜の街を漂う。
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ペナ紅 - やっぱ電話の相手、半田だったんだ…！ (2021年7月5日 16時) (
レス) id: 173b2b90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのわたし(プロフ) - 完結おめでとうございます。高い文章力ですごく引き込まれました。私事ではありますがわたしは基山ヒロトが好きで吉良ヒロトがどうしても好きになれずこの小説を取っ掛りとして読ませていただきました。あなたの作品で彼のことを好きになれました。 (2020年12月8日 18時) (レス) id: 0a912f5e29 (このIDを非表示/違反報告)
りと - 完結おめでとうございます！丁寧かつ読みやすく想像しやすい文章でサクサク楽しく拝見できました！個人的には甘くない終わりにくそぅ！と思いつつでも現実だったらそうだよなぁとしみじみ受け止めました。笑 また是非に文字を書き続けてください！応援しております！ (2020年11月22日 15時) (レス) id: 4c41bf9741 (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - とっても楽しく読めました！大好きな作品です！完結おめでとうございました！ (2020年3月17日 10時) (レス) id: 40379c818e (このIDを非表示/違反報告)
鬼跡 - 完結おめでとうございます⊂((・x・))⊃この作品本当に大好きでした！！！！大好きです！ヾ(＠⌒ー⌒＠)ノ (2019年12月18日 18時) (レス) id: 8e87660fcc (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時：2019年8月22日 20時
