scene284 ページ34
すれ違う人にガン見されたけど、野坂は気にせず進む。
やっと手を離してもらえたのは、サッカー部室の前だった。
「あれ……これって」
部室にかけられていたブルーシートは取り払われ、立ち入り禁止の黄色いテープもなくなっていた。
「改めて見ても、やっぱりボロボロだね」
「なんで……」
野坂は校舎の上の方を指さした。
それから、ゆっくりと部室の辺りまで指を下ろす。
おれは訳も分からず、野坂の行動を見守る。
腕を下ろすと、おれの顔を見て言った。
「分かった？」
首を傾けて、僅かに口角を上げる。
「いや……なにがだよ」
すると野坂は、わざとらしいくらいのでかいため息をつく。
「まったくヒロトくんは……そういうとこだよ、ほんと」
「はぁ？」
「いいかい、鈍感なヒロトくんの為に説明してあげるよ」
おれは込み上げる怒りを抑えて、野坂の言葉を待った。
「思い出したんだよ、Aちゃんは」
野坂の視線の先には、ボロボロの掘っ建て小屋。
「最後に……ね。いや、それが最後にならなくてよかった」
カチリ、とそのとき、おれの中で歯車の噛み合う音がした。
「Aちゃんが、守るべきもの、守りたいものを……だから、こっち側だったんだ」
おれはもう一度校舎を見上げる。
太陽の光に目を細める。
蜃気楼が揺れ、そこに、Aの姿が見えた気がした。
どうして、雷門中だったのか。どうして、わざわざ校舎の西側に移動して、飛び降りたのか。
なぜ、部室の取り壊し計画がなくなったのか。
「Aちゃんが飛び降りたことで、部室の周辺が封鎖された。その間に、鬼道さんが工事会社を買収したんだよ」
最後に思い出したんだ。Aは、大好きなサッカー部を守りたかった。思い出の詰まった部室を、みんなの思いを。
黒い感情に支配されながら、懸命に守ろうとしたんだ。
「あの……すみません」
突然、背中に投げかけられた声に、おれはばっと振り返る。
「え、す、すみません。ちょっと入りたいんですけど……」
茶色い髪の男が立っていた。頭のてっぺんに双葉のようなアホ毛があること以外、別段特徴のない男だ。
だけど、なんでだろう。おれはこいつを知っているような気がする。
おれがじっと見ると、そいつは不思議そうな顔をする。
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ペナ紅 - やっぱ電話の相手、半田だったんだ…！ (2021年7月5日 16時) (
レス) id: 173b2b90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのわたし(プロフ) - 完結おめでとうございます。高い文章力ですごく引き込まれました。私事ではありますがわたしは基山ヒロトが好きで吉良ヒロトがどうしても好きになれずこの小説を取っ掛りとして読ませていただきました。あなたの作品で彼のことを好きになれました。 (2020年12月8日 18時) (レス) id: 0a912f5e29 (このIDを非表示/違反報告)
りと - 完結おめでとうございます！丁寧かつ読みやすく想像しやすい文章でサクサク楽しく拝見できました！個人的には甘くない終わりにくそぅ！と思いつつでも現実だったらそうだよなぁとしみじみ受け止めました。笑 また是非に文字を書き続けてください！応援しております！ (2020年11月22日 15時) (レス) id: 4c41bf9741 (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - とっても楽しく読めました！大好きな作品です！完結おめでとうございました！ (2020年3月17日 10時) (レス) id: 40379c818e (このIDを非表示/違反報告)
鬼跡 - 完結おめでとうございます⊂((・x・))⊃この作品本当に大好きでした！！！！大好きです！ヾ(＠⌒ー⌒＠)ノ (2019年12月18日 18時) (レス) id: 8e87660fcc (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時：2019年8月22日 20時
