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Aの口から僅かに息が押し出される。
パラレルワールドに存在するもう一人の自分。あったかもしれない出来事が起きている世界。もしかしたら、自分がそうなっていたかもしれない。
「それも、あっちの世界の人に聞いたの……？」
「いや、これは……」
おれは一瞬言葉に詰まる。
「……不動さんに聞いたんだ」
Aの瞳が揺らぐ。
「そっか……」
こんなに沈んでいるAを見るのは初めてだった。
Aは錆びた手すりを両手で掴んで、眼下に広がる袋小路を見下ろす。
「私ね……もう全部どうでもよくなっちゃったんだ。どうでもよくなっちゃって……逃げてきちゃった」
Aの声は冷たい水の中にゆっくり沈んでいく。
「いろんな人のこと裏切っちゃったし……帰る場所もないし……」
二の腕をぎゅっと掴んで、Aは言葉を続ける。
「もっと上手くやるつもりだったのに……なんでこうなっちゃったんだろう……」
小さな肩が震えて、Aの声は痛ましい熱を帯びる。
「可愛らしい衣装も、可愛らしい歌も、それに群がる人たちも、全部気に入らない。私が欲しいのはそんなものじゃない」
初めてAの本音を聞いた気がした。なにかに対して、こんなに感情を露わにしているところを見たことがなかった。
アイドルって、Aにとってなんだったんだろう。ずっと大事にしていたはずなのに、全部投げ出して来てしまうなんて。
Aは唇を噛んで下を向く。小さな肩が小刻みに震えていた。
恨みにも似た感情を滲ませる。もう一人の自分から託されたアイドルという仕事を、Aは本当は好きじゃなかったのだろうか。
スポットライトを一身に浴びてきらきらと輝く笑顔も、全部偽物だったのか。
「でも、大事なものだったんだろ」
嫌いでも、憎んでいても、それでも手放せないものだったんだろ。
嘘で塗り固めて、憎しみで作り上げた虚構だったとしても、だれかの力になってたんだ。
それは、それだけは、嘘じゃない。
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ペナ紅 - やっぱ電話の相手、半田だったんだ…！ (2021年7月5日 16時) (
レス) id: 173b2b90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのわたし(プロフ) - 完結おめでとうございます。高い文章力ですごく引き込まれました。私事ではありますがわたしは基山ヒロトが好きで吉良ヒロトがどうしても好きになれずこの小説を取っ掛りとして読ませていただきました。あなたの作品で彼のことを好きになれました。 (2020年12月8日 18時) (レス) id: 0a912f5e29 (このIDを非表示/違反報告)
りと - 完結おめでとうございます！丁寧かつ読みやすく想像しやすい文章でサクサク楽しく拝見できました！個人的には甘くない終わりにくそぅ！と思いつつでも現実だったらそうだよなぁとしみじみ受け止めました。笑 また是非に文字を書き続けてください！応援しております！ (2020年11月22日 15時) (レス) id: 4c41bf9741 (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - とっても楽しく読めました！大好きな作品です！完結おめでとうございました！ (2020年3月17日 10時) (レス) id: 40379c818e (このIDを非表示/違反報告)
鬼跡 - 完結おめでとうございます⊂((・x・))⊃この作品本当に大好きでした！！！！大好きです！ヾ(＠⌒ー⌒＠)ノ (2019年12月18日 18時) (レス) id: 8e87660fcc (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時：2019年8月22日 20時
