夜明けを待つ月【吉良ヒロト】 (ページ6)

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「昨晩ものすごい音がしていたけど、もしかしてAちゃんの仕業だったの？」

「あ、うん……やっぱり起こしちゃってたんだ。ごめんね」Aは眉を下げる。

てか野坂は音に気付いてたのか。気付いてほっといたとか野坂らしいっちゃらしいけど。

「気にしないで」と野坂は微笑む。どうしてこいつの笑顔はこんなに胡散臭いんだ。裏に何かあるのではないかと勘繰りたくなってしまう。

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あいつの作った味噌汁はなかなか美味かった。

「これがアイドルの作った味噌汁か……」と剛陣さんが訳の分からないことを言っていた。別に今日初めて食ったわけじゃねえだろ。毎日食ってんだろ。

「Aちゃんの味噌汁、すごくおいしいよ」

野坂は向かい側の席に座っているAに言った。

Aは「よかった」と顔をほころばせる。

その様子を見て、おれはなぜか複雑な気持ちになった。

・

「お疲れさま！」

練習が一区切りしたところで、あいつがみんなにドリンクを渡していた。

さすがはアイドルといった笑顔だ。まあ、練習後の疲れた精神にはいいご褒美だろうな。

「灰崎くんも」と青いボトルを差し出す。「さっきのシュート、すごかったね」そう言って笑うと、あいつの周りだけ光が差しているように錯覚する。心なしか花も舞っているような。

「あ、ああ……」

このアイドルスマイルには、さすがの灰崎もたじたじの様だ。

・

練習の後、ロッカールームで着替えて部屋に戻る途中、ランドリールームの前を通ると、Aの姿があった。

壁にずらりと並んだ洗濯機の前でしゃがみ込んでいる。腹でも痛いのか？と思ったが、どこか落ち込んでいるようにも見える。

艶のある髪の流れがその表情を隠していた。

「何してんだよ」

こういうとき、もっと優しい言い方ができれば、と思う。野坂あたりはそういうの得意そうだな。

「あ、ヒロト。お疲れ」

Aは顔を上げた。落ち込んでいる様子ではなかった。

「洗濯機が回ってるのを見てるの」

一瞬、ランドリールーム内の時間が止まった。