夜明けを待つ月【吉良ヒロト】 (ページ48)

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夜中、人の声で目が覚めた。廊下でだれかが話しているようだ。

だれだよこんな時間に、うるせえな。

おれは特に気に留めず、もう一度眠りにつこうとした。

話し声はすぐに止んで、静かになった。もう一度眠りにつこうとしたが、なんとなく廊下に人の気配を感じて、おれは布団からでて廊下を覗いてみることにした。

もちろん灰崎は小さく寝息をたてて眠ったままだ。

部屋のドアをゆっくり開け、首だけ廊下に出してあたりを窺うと、奥の方にでかい図体が膝をかかえているのが見えた。

「……なにしてんだ」

おれが声をかけると、でかい影がのそりとこちらを見た。

「野坂さんが……出て行けと」

廊下で縮こまっていたのは西蔭だった。

「はぁ？」

なんだそれ、こんな時間にか。

「おれにもなにがなんだか……」

さすがの西蔭も困惑している様子だった。こいつ野坂にいじめられすぎだろ。そういうのが趣味なのか。

「それでほいほい従うあたり、お前すげえよ……」

「それほどでもない」

いや褒めてねえから。

「ひでえな野坂のやつ、こんな時間にルームメイト追い出すとか」

「いや、野坂さんは……」

何か言いかけて西蔭は口をつぐんだ。

野坂もマジでわかんねえけど、こいつも大概だな。類は友を呼ぶって本当なのかもしれない。

「野坂さんを……恨んでいるか」

やっと聞こえるくらいの小さな声だった。

「は……？なんだよ急に」

「野坂さんはいつも正しい。だが今日のは野坂さんらしくないやり方だし、少しかわいそうだと思った」

西蔭は抱えた自分の膝をじっと見ていた。

こいつにかわいそうだと思う心があることに正直少し驚いた。

野坂に忠誠を誓って、野坂の命令ならどんな冷酷なことでもやるやつだと勝手に思っていたが、西蔭にもいろいろ思うところはあるのかもしれない。

「別に恨んでねえよ」

「本当か」

ずいとでかい上体をおれの方に乗り出す。びっくりするから急に動くな。