夜明けを待つ月【吉良ヒロト】 (ページ47)

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「風丸さんは何か知ってるんじゃないですか……、おれよりあいつと付き合い長いし」

「いや、おれは何も……。だから、野坂に言われて初めて気付いたんだ、おれは……Aに関する記憶に、どうも曖昧な部分が多い」

「風丸さんまであいつを疑うんですか……！」

「そうじゃない。ただ、これは事実なんだ。おれだけじゃなく、AもA自身に関する記憶が曖昧なんだとしたら……これはどういうことだ」

「知らねえよそんなの！」

そんなこと、おれが知りたい。野坂の口ぶりだと、野坂もまだそこまでは掴めていないのだろう。だからA自身に語らせようとした。あんなにも強引な方法で。

「そうだな……すまない」

「だいたい、そんなの知ってどうすんだよ」

「知ってどうするということもないが、……まあ、そうだな、Aが話したくないのなら、無理に聞き出そうとするのは褒められたやり方じゃない」

なんで風丸さんはそんなに冷静でいられるんだろう。

Aが何か隠していることがあるとすればそれはなんだ。なんであいつはそれを隠している。言えない理由は。おれが違和感を感じた部分は。野坂が怪しんでいたのはどういうところだった。

「……待つしかないだろうな」

風丸さんの言葉も聞こえないふりをして、おれはぐちゃぐちゃした頭をなんとか整理しようとしていた。

知ってどうする、なんて言っておいて、Aが隠しているものの正体を掴もうともがいていた。

「ヒロト」

肩を掴まれて顔を上げると、風丸さんの真っ直ぐな瞳と目が合った。

澄んだまなざしはなぜかAのそれと重なって見えた。

「今度野坂が強引な手段をとったら、おれたちはそれを止める」

「……はい」

おれが頷くと風丸さんは「よしっ」と言って笑顔を見せた。

風丸さんの笑うと、胸の奥のわだかまりを風のような爽やかさがさらっていった。