夜明けを待つ月【吉良ヒロト】 (ページ40)

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なんなんだ、野坂のやつ、一体何を企んでいる。

まさか本当にAのこと……。

「じゃあ、ぼくたちは晴れて恋人同士ということで」

野坂がAに微笑みかける。

「よろしくね、Aちゃん」

「う、うん……」

こんなのは何の意味もない口約束だ。野坂の目的は別にある。そう自分に言い聞かせながらも、おれの中になにか黒いものがもやもやと広がっていく。

恋人同士……か。

急に二人の間だけ別の時間が流れているように感じた。

野坂にじっと見つめられ、Aは恥ずかしそうに目を逸らす。

いや、ちょっと待てよ……。

「ちょっと来い」

おれは野坂の首根っこを掴んで少し離れた場所まで引っ張っていく。

「ヒロトくん、乱暴はよして欲しいんだけど……」

手を離すと、野坂は乱れた服を直しながら言った。

「うるせえ、いいから聞け」

おれはAに聞こえないように野坂の肩を組み、身を屈め小声で話す。

「お前……Aになにかするつもりじゃねえだろうな」

「ん、なにかって？」

「とぼけんな！だから、……あ、あれだ、その……」

野坂の口元に薄ら笑いが浮かんでいる。くそ、こいつわかって訊いてやがる……！

「だっ……だ、からっ、……き、キスとかだよ！」

「どうかな、そういう空気になったらするんじゃない？」

野坂はさらっと答えた。

「お、お前本気じゃねえくせに、そういうことすんのかよ！」

「本気じゃないなんてだれが言ったの？」

「は？ほ、本気なのかよ……」

「ううん」

「ブッ飛ばすぞマジで！」

野坂はするりとおれの腕から抜け出す。

「それもヒロトくんには関係ないことだよ。ぼくがAちゃんに手を出そうと、ヒロトくんには関係ない、そうだろ」

「て、手を出すって……！関係あるだろ！」

まさかAが逆らえないのをいいことに、手を出すつもりなのか？さすがの野坂もそこまで外道じゃないはず……。

「関係ある？なぜだい」

野坂がおれの目を見据える。

……ここで言うべきなのか、言ったらなにか変わるのか。

「おれは……」

腹の底に押し込んで蓋をしていた言葉が喉まで出かかっていた。