夜明けを待つ月【吉良ヒロト】 (ページ28)

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「ヒロトくん」

「うわっ！」

声に驚いて振り向くと、すぐ後ろに野坂が立っていた。

「明日は練習が休みだけど、なにか予定はあるのかい？」

いつも急すぎんだよお前。

「なんだよ、別にねえけど……」

「じゃあ、ぼくに付き合ってもらおうかな」

「はぁ？」

野坂はすっと真剣な顔になった。

「明日、決行する」

おれの背中を不気味な気配が這い上がる。

明日決行って……あれのことか。マジでやるつもりなのか、野坂は。

「じゃあ、詳細は後で。ここは人が多すぎるから」

「ちょっ……！」

言いたいことはたくさんあった。勝手に決めんなよとか、他の方法はないのかとか、でも、おれが言う前に野坂は明日人に捕まって、おれは全部喉の奥にぐっと押し戻した。

「なあなあ、野坂も明日遊園地行こうぜ！あ、ヒロトも行く？」

「ごめん、ぼくとヒロトくんは、明日用事があるんだ」

明日人は「そっかー」と残念そうだ。それから「二人で用事って？」と訊いた。

おいおい……野坂、どう誤魔化すつもりだよ。

「実はAちゃんのMV撮影の手伝いに行くんだ」

……は？

「えー！なにそれ、ちょー楽しそう！」

聞いてねえぞ、と野坂を睨みつけると、野坂は「すっげー！」とはしゃぐ明日人を尻目に、ふっと笑った。

さすが、戦術の皇帝様だ。既に作戦は始まっているらしい。