夜明けを待つ月【吉良ヒロト】 (ページ26)

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「おい、起きろ」

誰かがおれを揺さぶる。うるせえな、疲れてんだよ。

「起きろって！いつまで寝てんだ！」

布団をひっぺがされ、ようやく目が覚める。

「ったく、寝坊とか珍しいな。手間かけさせるんじゃねえよ」

灰崎がおれを見下ろしていた。

「早く着替えて顔洗って来いよ」

そう言って灰崎は部屋を出て行った。

あいつ結構面倒見いいよな……。

回らない頭でそんなことを考えながら、部屋を見回す。

昨日のあれは夢だったのか……って、んなわけあるか。

昨日はあれからどうしたんだっけ。確かあの後すぐ別れて、部屋に戻ってベッドに潜り込んだんだ。それからしばらくモヤモヤした気持ちが消えなくて、いろいろ考えていたら、いつの間にか寝ていた。

練習で疲れていてよかった。じゃないと一晩中考え込むところだった。

めんどくせえけど早く着替えないと……。朝食抜きで練習はさすがにきつい。

どんな顔をしてあいつと話せばいいんだろう。共同生活を送っていると、顔を合わせずにいることはできない。

とにかく、できるだけいつも通りにしていよう。どうせあいつも気にしていないだろうし、一晩経てばけろっとしているはずだ。

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食堂へ下りていくと、Aはいつも通り、他のマネージャーたちと一緒に配膳の手伝いをしていた。

「あ、おはようヒロト」

しかもおれを見ると、すぐ話しかけてきた。

「……ああ」

予想はしていたけど、こうも何事もなかったかのようにされると、なんだか癇に障った。

あんな話を聞かされて、こっちがどんな思いでいると思ってんだよ。

お前が気にしなくても、おれが気にするんだよ。

「おはよう。ヒロト、なんだか眠そうだね」

後から来たタツヤがおれの顔を覗き込む。

「あれ、今日はイナズマ描いてないんだ」

「え？ ……ああ」

マジか……忘れてた。

「昨日なにかあったの？」

タツヤに訊かれて、心臓がどきりと音を立てる。

タツヤはこういうとき、結構鋭い。おれは見透かされないよう、目を逸らした。

「別に……」

なんでもない、と言おうとしたとき、視界の端で赤い液体が飛び散った。