夜明けを待つ月【吉良ヒロト】 (ページ3)

今日:6 hit、昨日:9 hit、合計:102,170 hit

scene3 ページ3

部屋に戻ると、おれはベッドに寝転がった。とたんに心地良い疲労感が広がる。もう動きたくない。このまま眠ってしまいたかったが、不思議なくらい目が冴えていた。

目を閉じると、あいつの姿が浮かんだ。さっきまでテレビで見ていたせいだ。

・

部屋のドアが開き、灰崎が戻ってきた。

「お前、先に戻ってたのか」と特に興味なさそうに言った。おれは「ああ」と気の抜けた返事をして、灰崎に背を向けるように寝返りをうった。そのまま目を閉じ寝てしまおうかと思ったが、やはり目が冴えて眠れない。

「今、Aのこと考えてるだろ」

「は！？」

急に背中に向かって投げつけられた言葉に、おれは飛び起きた。

「急に何言ってんだ灰崎！」

「図星か」

うろたえるおれを見て、悪魔が笑いかける。それから「やれやれ」と口にしてベッドに横になった。

確かにあいつのことを考えていた。というかここ最近ずっとそうだ。

食堂に集まる前から、テレビを見てる間、そして部屋に戻ってからも、ずっとあいつのことを考えていた。

なぜこんなにAが頭の中を支配するのか分からないが、それほど気にしていなかった。
それなのに、突然ルームメイトに指摘され、なぜだか顔が熱くなった。

「お前はわかりやすすぎるんだよ」

「わかりやすいって何がだよ」

「気になるんだろ。Aのことが」

「はぁ！？おれがいつそんなこと言ったんだよ！」

「うるせえな。これから寝るって時にでけえ声出すなよ」

冷静に指摘され口ごもる。言いたいことはいろいろあったが、何を言っても墓穴を掘ることになる気がした。

自分のうろたえ具合に自分でもあきれるほどだった。この状況で声を荒げたら、灰崎の言うことを認めているようなものだ。
でも違う。あいつが気になるとかそんなんじゃねえ。断じて違う。

灰崎はおれのどこを見てそう思ったんだ。おれにそんなこと言っといて、気になってるのはお前の方じゃないのか。

「電気消せよ」と灰崎が言った。命令すんなお前が消せ。

おれはしぶしぶ立ち上がり、部屋の電気を消して再びベッドに戻った。
しばらく眠れそうになかった。