夜明けを待つ月【吉良ヒロト】 (ページ20)

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「やっぱり、警察に行った方がいいかもしれないな」

野坂は気味悪いくらい落ち着いた口調で言った。

「マジかよ、そんなやばいのか」

野坂が言うと洒落になんねえんだけど。

「でもその前に、証拠を集めないと。じゃないと警察は取り合ってくれない」

「お、おう……」

なんか大変なことになってきたな。

「四六時中ぼくたちが行動を共にするのもまずいかもしれないな」

「なんでだよ」

一緒にいた方が安心じゃないのか。

「Aちゃんがひとりになることをストーカーは望んでいるんだ。なかなか思い通りにならないと、逆上して予想外の行動をとる可能性も考えられる」

なんでそんな詳しいんだよ。ストーカー撃退の戦術は持ち合わせてないんじゃなかったのか。

「決定的な証拠を確保するには……」

野坂は腕を組んでしばらく考えて、それから口を開いた。

「犯行現場を押さえるのが、一番手っ取り早い」

「はああああ！？なに言ってんだ野坂！」

「しっ、声が大きい」

野坂は大声を上げるおれを制した。

マジでなに考えてんだこいつ。それってつまり……。

「犯人にAちゃんを襲わせるんだ」

そういうことだろ。ありえねえ、戦術の皇帝が聞いてあきれるぜ。

「却下。その作戦はありえねえだろ」

「ちまちま証拠を集めている時間はないんだ。ぼくたちもAちゃんも、他にやることがあるだろう」

そう指摘され、おれはなにも言い返せなくなった。

確かに、おれらはサッカー日本代表だし、あいつはアイドルだ。

証拠集めばかりに気を取られていては、足元をすくわれる。そうなってしまっては、元も子もない。

おれらは練習に集中するべきだし、あいつだって、回りくどいことをしてはいられないし、そんな時間もない。

なるべく早急に解決してやりたい気持ちは山々だけど……。

「おーい！野坂！ヒロト！ご飯だぞー！」

ぐるぐる巡るおれの思考は、円堂さんがおれたちを呼ぶ元気な声で掻き消された。

「もう少し考えてみようか」

そう言って野坂は食堂へと向かっていった。そこでおれらの作戦会議は中断された。