夜明けを待つ月【吉良ヒロト】 (ページ19)

今日:17 hit、昨日:9 hit、合計:102,181 hit

scene19 ページ19

・

帰り道は何事もなく、無事に合宿所まで辿り着くことができた。

なるべく警戒するようなそぶりは見せるな、と野坂に言われていたが、ずっと緊張していた為か、エントランスをくぐると、どっと疲れが押し寄せてきた。

「ありがとう、野坂君。ヒロトも……迷惑かけてごめんね」

萎縮するAに、野坂は淡く微笑む。

「いいんだよ。何も起きなくてよかった」

Aは野坂の言葉に少しほっとした顔をして、それからおれを見た。

「……気にすんな」

そう絞り出すだけで精一杯だった。

野坂の言っていたことも引っかかっていたが、やっぱり、Aは少し元気がないようにも見える。

このままにしておいていいのか。この先も、何も起きないといいのだが。

野坂はストーカーをどう対処するつもりなのだろう。おれらがAに付いていたら、そのうち諦めるとでも思っているのだろうか。

・

合宿所に着いて早々に、Aは夕食の準備のため、食堂へと消えていった。

おれは野坂と二人、エントランスに取り残される。

「今日もつけてきてたのか」

「うん。たぶん、前と同じ人だ」

正直、だれかが後をつけてきているのかどうか、おれにはわからなかった。

「どうすんのよ、これから」

野坂のことだ、既になにか対策を考えているのかもしれない。

「そうだね……しばらくは、こうして警戒しているしかないかな」

「なんだよ、撃退方法とか考えてるわけじゃねえのか」

そう言うと、野坂はふっと笑った。

「ぼくは戦術の皇帝と呼ばれているけど、それはサッカーに関して、だからね。生憎、ストーカー撃退の戦術は、持ち合わせていないんだ」

「……そうかよ」

さすがに監督とかには相談した方がいいんじゃないか。子どもだけでやれることも限られているだろう。

てか監督に言えば、波風立てずに簡単に解決してくれそうな気もするけど。